Brisagram! 海辺の草こよみ vol16

山笑う 

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

山
葉山のやまさくらたち

この時季になると、山々にはこんなに山桜があったのか、と毎度ながら驚いてしまいます。
あちこちに花霞がたなびき、幻想的な気配に包まれ、
花芽や新芽に覆われたさまは息を飲むほどに、素晴らしい眺めとなります。
時にその下に立ち並ぶ、この時代の様式の家々とはシュールなコントラスト、
100年ほど前の、電線などもなく、茅葺きだった頃の集落がそこにある景色を想像してみたりします。

「山笑う」という春の季語がありますが、いい表現だなあと思います。
ちなみに夏は山滴る(したたる)、秋は山粧う(よそおう)、冬は山眠るとなるのですね。

この時季から新緑のころまでは、ほんとうに山がころころと笑っぱなしのような、
浮かれたような独特の気配をまといます。
新緑を過ぎると、緑は一様に落ち着き、山は深い緑のなかに沈みますが、
それまでは、ひとつひとつの存在が浮き上がり、命の多様性が解りやすく見えるので、
こちらもなんだか心沸き立つのです。
ここにもいるよ、あっちにもいるよ、と、全員が参加、そんな弾ける命の脈動を感じます。

桜

この冬の二度の大雪で、
庭では大きな山桜の木が真っ二つに折れてしまい、かわいそうなことでしたが、
その枝をバケツに挿しておきましたら、見事に咲いてくれて、ちょっと感動しています。

いつもは背が高くてなかなか見えなかった山桜が、今年は目線の位置で、
存分に花を楽しませてもらうこととなりました。
花が咲く前に、その枝で桜染めをしようと思っていたのですが、なんだかかわいそうになり、
結局、花が咲くまで置いてしまいました。
私の仕事はいつもそのようで、なかなかはかどりません。

もう来年は咲かない命、この枝の最期の開花と思うといとおしい桜たちです。
それがわかっているからか、花たちは力強く、凛と咲いてくれています。
花が終った枝を、最後に染めさせてもらおうかと思います。

枝

借家の庭には、もとからあったもの、代々の住人が植えていってくれたもの、
いろいろなギフトが重なって、思いもよらない植物が、
その季節になるといきなり咲くので、驚くことがあります。
この時季はこの、はなももです。

はなもも

これも高い枝の先に咲くので、ハシゴをかけて近くまで見に行きました。
一つの枝に、二色の花が咲き、目を楽しませてくれています。
こうした家の庭の木々たちも、遠くから見ると山のなかで笑っているように見えるのでしょうか。
そんな今の時季の木々や花たちに囲まれていると、それだけで天国。
この季節はもう朝から庭にいるだけで酔うようです。
お酒は必要ありませんね。

自分もまた、山笑うのなかにはいっているメンバー、
と思うと、うれしくなったりします。

羊歯大
羊歯もまた笑っているように見えてしまいます

この春はいつまでも冷たい日が続きますが、
日差しのきらめきは、植物たちをぐんぐんと目覚めさせています。
庭のカマキリの卵も孵化し、かわいいチビカマキリたちが走り回っています。

命がいっせいに目覚めるこの時季に浸って、たくさんの命と触れ合うことは、
自分の中の新たな目覚めに繋がって行くように思います。

今のこの瞬、短いけれど命のあふれた一瞬の時季をからだに刻んで、
春まっただなかを、楽しみましょうね。

庭
庭の鉢植えたちも笑っていそうです

写真・文 矢谷左知子

草講座 葉山芸術祭

草文明

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矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」でワークショップ
時々、逗子CINEMA AMIGOで「草ランチ」を出しています。

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