Brisagram! 海辺の草こよみ vol.52

草からおそわる*山茅の巻

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

ほうき大
手作り箒 左の布も私の作品です。(野生の草から糸をつくって織ったもの)

啓蟄ももうすぐ。
山のほうからはカエルの地鳴きが聴こえてきます。
鳥たちも忙しく飛び交い、木の芽もふくらんで、水平線ももやもやした日々が多くなってきました。
フキノトウも盛り。
あっちもこっちも春の気配ですね。

でも、染めたり、糸にしたりの草仕事に使う草たちはまだまだ出揃いません。
この時季は去年の秋からずっと野山に立ち続けている、山茅の収穫です。
白い穂が飛び終わり、傾げていた頭を持ち上げて、寒風に耐えてきた山茅の穂先がちょうどよい感じに、すっくと立っている、
この時季が収穫刻です。

前回、月桃からのものづくりのご紹介をしましたが、
今日は山茅の手仕事を少しご紹介いたしましょう。

茅

周辺の草を繊維にしたり、染色に使ったり、道具つくりに用いているのですが、
山茅はランプシェードやタペストリー、箒を作る素材にしています。

箒はホウキ草、棕櫚、竹などの素材で作られてきました。
私の場合はすぐそばにあって、手に入りやすく作りやすい山茅で遊びとしての箒をつくっています。
それがとてもかわいいのです。
不ぞろいな穂先の景色がまたよく、切りそろえるよりも、掃き心地のよいものになるから不思議です。
なるべく自然の法則にさからわないモノづくりを心がけていますが、そのほうが実用的でもあるということの多さに、いつも心を動かされます。

山茅はもともと茅葺き屋根の素材です。
この国の風土では長い間、屋根の素材として、人の暮らしを支えてきてくれました。
そんな茅もいまは無用の雑草として、野に伸び盛り、じゃまにされて、刈られ打ち捨てられています。
そういうものを素材にしようと、ランプシェードや箒を作りはじめました。

ランプ
山茅でつくったランプシェード。土台も手作りです。

周りに生えている自然物で手仕事をすることは、誰もがなにかを呼び起こされるような感覚、
無心に打ち込む心持ちを味わいます。
それは植物たちが、野を離れ、手の中にきても、そのものが吸収した大地のエネルギーや、
過ごした季節の記憶のようなものを、わたしたちはどこかのセンサーで感じ取り、同調しているからかもしれません。
自分が作っていると思っていても、実はいっしょにコラボレーションしているから、
その時間がなんとも言えず満たされるのでは、と思ったりしています。

ほうきたち
ちびほうき
箒ワークショップでの箒たち

そんな草の手仕事ワークショップをしています。
草が出揃うまでは採りためておいた、素材をつかって。

もうすぐまた草たちに逢えることを楽しみに待ちながら。

フキノトウ
庭に出てきたフキノトウ

文・写真 矢谷左知子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」で草のワークショップ

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