Brisagram! 海辺の草こよみ vol.59

七草はこれから

ななくさ大

立春を過ぎてから、寒さは底になりますね。
冬以上に冷え込んだり雪が降ったり。
そのなかで、庭では梅が元気に花咲いています。
人が一番縮こまり、かじかんでいる時季に、花開くこの植物はすごいなあ、と勇気づけられます。

2月の初旬、「七草を摘み、七草膳を味わう」催しをしました。
そのご報告を兼ねて、今回は、ほんとうの七草のことを。

旧暦のお正月から数えて七日目、今年は2/3、節分と重なりました。
月の満ち欠けで刻まれる月の暦では、毎年旧暦の元旦は変わります。
2017年は1月28日がお正月でした。そこから数えて7日目が2月3日。
ちなみに次ぎの旧暦のお正月はずいぶんとずれて、2018年2月19日となります。

なずなはこべ

新暦の七草、1月7日には、本来の七草はまだまだ生えていません。
昔からの行事は旧暦に沿って月の満ち欠けや自然のリズムに基づいているのに対して、
わたしたちの今のカレンダーは、西洋のグレゴリオ暦、季節の風物とは合わないのですね。

正月七日に七草粥を食べるというのは、日本古来の春浅い時季の若菜摘みの風習と、中国由来の行事が合わさってのことですが、
春まだ浅き野で、時に雪もちらつく中、やっと顔を出した若菜を摘み、それをいただくことで、冬の間に身体に溜まったものを押し流す、そんな薬としてのの役割があります。
また、野菜が乏しい冬場に不足しがちな栄養素を補うという効能もあります。

ところで、一般に謂われている七草、
いわゆる、せりなずなおぎょうはこべらほとけのざすずなすずしろ・・・とおまじないのような七種の草、
どこにでも生えているという、代表的な草である、というところから選ばれたのかもしれませんが、
旧暦の七草の日にでさえ、まだおぎょう(ごきょう・御行)はどこにもなく、また、もっと美味しい草は他にあります。

なずな2

地域によって、生える草は違い、その時季もさまざまです。
薬効はどれにもあり、もともと野の一番摘みの草をいただくことに意味があるのですから
その時季にスーパーマーケットで売られている、温室栽培の七草では本来的には意味がありませんね。

形骸化した七草を無理に揃えるのではなく、
一草でも、二草でも、
それぞれの人が住む風土で、
この時季に顔を出した、すぐそばに生えているものをいただくこと。
冬を越えて、ぎゅっと詰まったエネルギーの噴出した芽、
それをいただくことこそに意味があります。

この地域なら、美味しい草が他にもありますよ。
新・七草、
あるいは、葉山七草、鎌倉七草、のように、各地の七草があるでしょう。
その人の、すぐそばに生えている草が、一番、その人を癒す力があるとも謂われていますからね。

うちではこの時季の庭の七草を食します。

ななくさ

蓬(よもぎ)
芹(せり)
繁縷(はこべ)
蕗の薹(ふきのとう)
露草(つゆくさ)
野三葉(のみつば)
野蒜(のびる)

暦の上での七草というのは終わりましたが、
実は季節はまさにこれからが、草の出始め。
今が実際の七草粥の旬とも言えます。
ぜひ、周りの草でお試しくださいね。

あなたを癒す力を持つ、足もとの草を見つけてみてください。

さて、この日は秋谷のyusanでの草講座でした。
歩いて草を採ってきたあとの、おいしい七草膳!

御膳

文 矢谷左知子
写真 児玉明子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
「草舟 on Earth」にて、毎月草のワークショップ

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