第5回予告篇ZEN映画祭の辰巳芳子さんミニトークをレポート。

12月1日(土)2日(日)、浄智寺内で開催された第5回予告篇ZEN映画祭は、大盛況のうちに幕を閉じた。昨年度グランプリ作品『天のしずく 辰巳芳子”いのちのスープ“』の本編上映では、辰巳芳子さんが登壇し、およそ1時間におよぶ本作品の解説をおこなった。

すでに『天のしずく 辰巳芳子”いのちのスープ“』を観ていた私は、この映画は、いのちのスープ=いのちのパン、すなわち互いに愛し合いなさいというキリスト教的な精神やヒューマニズムのお話と思っていた。けれども、この映画が言うところの愛することとは、どうやらそれだけではないようだ。
スープ

食について

冒頭で著作『あなたのために いのちを支えるスープ』の前文を読み上げた後、配られた1枚のプリント。

食に就ついて
「いのち」の目指すとことは「ヒト」が「人になること」「なろうとすること」

「この片仮名の人は、生物としての単なるヒトであります。で、漢字の人は、愛を知る人。「なること、なろうとすること」と、わざとそのように2回繰り返しています。さーっと書いたんだけど、今のところ食についての概念はやっぱりこれかなぁ、と思います」と辰巳先生。驚いたことに、3歳になる娘が通っている保育園の理念である「ヒトが人になるために」と同じではないか。さらに、先生は、こう続ける。
「食べものをつくり、食すということは、この在り方を尊厳することである」

愛することとは、

農家
「辰巳芳子云々なんて書いてあるけれど、けっして私の映画ではございません。あそこに登場する人間と物事を使って、あなた自身、心の中に命題をみいだしてください。なんらかの命題を導き出さなきゃダメですよ」
「監督の命題はハッキリしなかった。だんだん自然的に命題があふれてきた。監督は、愛することは生きること。私は命がなければ愛することができないから、生きることは愛すること」

「すばらしいカメラマンだった。本田茂さん。追求し始めたら一歩も退かない。映画にうつるのは何分何秒か。夜を徹して寒空で震えながら待っていて(画面に)映らないんじゃないかなんて、一切考えないのね。愛するとはそういうこと。対象の上によきことを願う願い続ける意志が愛です」
なるほど、愛することとは、人と人の間だけではなく、こういうことも含まれるのか。
料理中
「人間同士だけじゃない。物事それすべて愛の対象でしょ。日本人の愛に対する意識はあまーいんだから。甘いんだから。なんとなくなんだから。もってのほかですよ」

「愛するってことは命を証明しなきゃならない。生きてる証拠なんだから」

「この映画の目的とするところはそれ。観た後、なんだか溢れてくるものが何であるか見抜かなきゃ」

「にんじんは5ミリ。愛することを表現するためには、そのような動かし難いことを自分の身につけなきゃならない。そういうことをくり返し繰り返しやっていると、それが自分の身に付く。身に付いたものでなければ生きていかれないですよ」
映画祭
会場を去り際、言い残したかのように自ずからマイクをお取りになって「しあわせは1人でなるものではない。まわりのみんなと一緒になるものです」と言い残した。

観る人それぞれが、異なる命題を導き出すことができるはず。河邑厚徳監督は、命題と実体、実体と命題の照合を繰り返し自問自答しては、脚本を何回も手直ししたという。
毎日、子どもに食べさせるのに必死の子育て世代としては、この映画を観て、つくることで私も心を育てられているんだ、と思えた。立場の違う人が見たら、どう感じるのだろう。
家族や友人みんなに、この映画の感想を聞いてみたいと思う。

文:柴田明日香

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