ちょっとしたときめきがあれば、毎日はもっと楽しくなる。

「店名の『VIVAHDE（ヴィヴァフデ）』とはフィンランド語で“ニュアンス”という意味です。目立った派手さや奇抜なものではないですが、見て、触れて、使うことでときめきや高揚感、充足感を感じられるもの。私自身がそう感じたものを集めています」と話すのは店主の森澤紀之さん。お店は稲村ヶ崎駅の改札を出るとすぐに見える場所にあり、昔ながらの郵便ポストも目印になっている。

「稲村ヶ崎はゆったりとした時間が流れ、穏やかで気さくな人たちとのふれあいがある大好きな街です。観光のお客様は少ないので商売にはちょっと不向きかもしれませんが、ゆったりと店内でくつろいでいただくにはいいロケーションだと思っています」（森澤さん）

こぢんまりとした店内には、さまざまな陶器市や展示会で森澤さんが心惹かれた器が並んでいる。使われて活きる器であるか、実用性があるか、実際にご自身でも使ってみて、その良さを実感したものばかりだ。「パッと目を引く派手さはありませんが、器は料理を盛って完成するものだと思っています。器自体も魅力だけれど、ステージは食卓ですから」と森澤さん。料理を作ることが好きで、器と料理の組み合わせを考えるのが楽しみと話す彼がセレクトする器は、色も形もシンプルなものがほとんど。だけど、器に触れてよくよく見てみると土の風合いや釉薬の景色、細やかなディテールなどが特徴的で、なるほど、これが“ニュアンスのある”ということかと胸にストンと落ちる。シンプルなだけに和・洋・中なんでも合わせやすそうで、器を見つめていると、料理や盛り付けのイメージがムクムクと湧いてくる。小さな豆皿なら500円からあり、中心となる価格帯は2500円〜3000円と価格も良心的で、作家ものだからといって特別構えることはなく、気負わず生活の中に取り入れやすいのもうれしい。

「店で扱っている作家さんとは基本的に直接お会いして、工房も訪ねるようにしています。作家さんもホームならリラックスしていろいろなことを話してくれますし、普段の制作活動の場や暮らしを知って作家さんへの理解を深めることで、お店を訪れるお客様に伝えられる情報の熱が違ってくると思います」（森澤さん）。

メールや電話でやりとりすることは簡単だし、作家さんに自分の店に来てもらうこともできるけれど、それでは森澤さんのペースになってしまって、分からないことや見落としてしまうことがある。だから森澤さんは相手の懐に飛び込んで、そこで感じた“ニュアンス”を自分の言葉でお客様に伝えることを大事にする。器が持つ力に森澤さんの情熱が加わると、一つひとつの器がより魅力的に見えてくる。

海が近く、富士山や江ノ島を一望でき、夕日も美しい稲村ヶ崎。店主との会話を楽しんだり、コーヒーでひと息ついたり。散歩がてらふらりと訪れたいお店がまたひとつ増えた。

取材・文／森國美代