“心地よさのヒント”を。葉山町の出版舎「ハンカチーフ・ブックス」

木漏れ日が心地よい、葉山の住宅街の小道をのんびり歩くこと数分。ちょうど道と道が交差する角に、なんとも居心地の良さそうなアトリエ「CORNER」が現れました。扉を開けると、3匹の猫がお出迎え。
02.JPG
普段はソーイング教室や様々なイベントで利用されるアトリエ、「CORNER」。昨年12月にスタートした葉山発の出版舎「ハンカチーフ・ブックス」の編集部としての役割も果たしているそうです。
元パン屋さんをリノベーションしたという「CORNER」は、なんとも落ち着いた雰囲気。そんな素敵な空間で、「ハンカチーフ・ブックス」の長沼敬憲さん(エディター)、渡部忠さん(デザイナー)、長沼恭子さん(PR)に、お話を伺いました。

3つの個が重なり、はじめて完結する

03.jpg
はじめて「ハンカチーフ・ブックス」を知ったとき、なんてセンスの良いネーミングなんだろう、と思いました。と同時に、なぜ葉山で出版を?という疑問も。まずは、誕生のきっかけについて教えて頂けますか?

長沼さん:「僕はエディターなので、本の中身をつくることが仕事です。中身以外のハードの部分は出版社などが携わるわけですが、これまでそんな当たり前のシステムのなか、とくに不満もなくやってきました。一方で、僕たち夫婦も渡部さんも、葉山に住み、葉山で仕事をしていて、そんな葉山でのライフスタイルの延長線上に、僕がこれまで携わってきた分野である医療、健康、食、科学などをリンクさせたい、という想いを抱いていたんです。これらの分野はもっと暮らしに溶け込んだら良い、実はそれは葉山に住む人たち、葉山的なものを好む人たちへのメッセージになるんじゃないかと。そして、そういうメッセージが込められた本が、書店ではなく、例えばここ『CORNER』に置いてあったら良いなと思ったんです」

確かに医療や健康といった分野は、実は生きる上でもっとも生活のなかに溶け込むべきテーマですね。それを出版というかたちで、しかも東京ではなく葉山でスタートされたことにとても感動しました!

長沼(敬)さん:「ハンカチーフ・ブックスを立ち上げるまでは、渡部さんとは仕事抜きの友人としてお付き合いしていました。昨年の夏前くらいでしょうか、渡部さんからハンカチーフ・ブックスの提案をいただき、この構想がスタートしました。渡部さんは、僕の思い描く世界観を具体的に表現してくれる人なので、僕たちと渡部さんが組むことで、はじめてひとつの“本”として完結するんです」

なるほど。3つの個が重なることで、はじめて一つの完成された形になるわけですね。
04.jpg
この素敵なアトリエは渡部さんがリノベーションをてがけカタチにされたということですが、「ハンカチーフ・ブックス」の由来も渡部さんが考えられたそうですね。

渡部さん:「はい。この場所(アトリエ「CORNER」)をつくってからたくさんの出逢いがありました。長沼さん夫妻との出逢いもそのひとつです。彼らが話してくれるさまざまな話を聞きながら、哲学とか生命とか、そういう根っこの部分を本にして、ここ「CORNER」から発信することができたら素敵だろうなと思ったんです。できれば、難しい内容をできるだけ分かりやすく、読み終えたときにちょっと元気になるような、そんな本ができたら、と。イメージは、ハンカチーフのようにポケットにいれて散歩にいき、一色海岸(の小磯)の芝生の上で寝そべって読書する、という感じで(笑)それが“ハンカチーフ・ブックス”の由来です」

なんとも葉山的な(笑)ゆるむ感じが最高です。

難しいことを、わかりやすく。

05.jpg
昨年12月に出版された2冊の本、「大切なことはすべて腸内細菌から学んできた」「僕が飼っていた牛はどこへ行った?」はどちらも、一見とても難しい内容に捉えられがちですが、読み進めると非常にわかりやすく、初心者でもすんなりと心のなかに入ってくる感じがします。
なかでも藤田一照さんと長沼さんのダイアログ「僕が飼っていた牛はどこへ行った?」は、禅の悟りにいたるプロセスを10枚の絵で表した「十牛図」という物語りを、禅を知らない人にもわかりやすく、日常に落とし込みやすい表現で解説してくださっているので、すらすらと読み進めることができます。

長沼(敬)さん:「ハンカチーフ・ブックスでは、生命や哲学といった生き方や考え方にまつわる本を、とても分かりやすく表現しようと思っていました。そういった類いの本はどれも難解なものが多いんです。理屈ではどうにもならない部分、それは感覚的に解きほぐさないとどうにもならないんですね。身体感覚と言うんでしょうか。そういう噛みごたえのあるものを、本質からはずれないように気をつけながらも、ほぐしてほぐしていく。ただし、その重要なエッセンスが外側にも表現されていないとダメなんです。ですから、渡部さんのデザインも含めて、とても僕たちらしい本になったと思います」

渡部さん:「長沼さんの世界感をデザインで包むというのは、けっこうな試みで(笑)。わかりやすくする、入り口を広げる、という意味ではデザインというのは非常に重要なんですね」

新書サイズでは珍しいカラフルなカバー、しおりには一色海岸の美しい写真。細部にいたるまで、女性の心を惹き付けるような洗練されたデザインが施された本は、贈り物としても最適。そう、贈られた相手はもちろん、贈り手のセンスを感じられるような、そんな本。

最小限の力で、最大限の効果を

06.jpg
2月に『粗食のすすめ』で有名な幕内秀夫さんと、医師の土橋重隆さんの対談本を出版されるそうですが、今後はどんな風に活動されるご予定ですか?

長沼(敬)さん:「極端に言えば、本の分野は何でも良いと思っていて。ただ、ある分野が好きな人たちに、違う分野を見せても入っていけるようにしたいですね。パスポートみたいな感じで、異なる分野をつないで行けたらと思っています。
そして長期的には、のんびりと無理のない方法でやっていきたいですね。最小限の力で、最大限の効果を出せるように。たくさんの方々に手に取って頂きたいとは思いますが、今のところ大手のオンライン書店での販売は考えていません。不思議な広がり方をしてくれたら嬉しいですね。例えば、三浦半島の奥に美味しい隠れ家レストランがあるから行ってみようか、そんな感じで、口コミや直販(web)、ハンカチーフ・ブックスが似合う場所で広がっていくのが理想です」
07.jpg
知識層という括りはナンセンスだと感じるほど、「ハンカチーフ・ブックス」の本はあらゆる人たちの知的好奇心をくすぐってくれるのではないでしょうか。今回のインタビューで、物理的にも精神的にも、読む人それぞれが、それぞれの価値観や捉え方で感じる。それが本来の読書のスタイルなのだ、ということを改めて教わった気がします。

「ぼくらは自由にやれるから」と笑顔で言い放つ、長沼さん。「“ザ出版”をやってもらっています」と楽しそうに語る、渡部さん。そんなふたりのやり取りを暖かく見守る恭子さん。
この3人の関係性がそのまま、ひらひらと風にのって揺れる“ハンカチーフ”のように、しなやかで自由な「ハンカチーフ・ブックス」へとつながっているようです。これからの「ハンカチーフ・ブックス」が楽しみでなりません。


写真撮影(アイキャッチ,2,3枚目):沢崎友希
取材・文 :asami
ハンカチーフ・ブックス
オンラインショップはこちら
Follow me!