海亀からの贈りもの

浜大

暑い季節も突然に終わりを迎えました。
七十二候のなかの、「天地はじめて寒し」も過ぎ、もうすぐ二十四節気の「白露」ですね。
知らないうちに秋がそこここに。
季節はまためぐります。

海辺に住んでいる方々は、夏はどこかに行くというより、こちらに来る人を迎えることが多かったのではないでしょうか。
それほどにこのエリアの夏は極上です。

私もこの夏、地元の海で妙なる命のギフトをいただきました。
それは・・真夜中の人ひとり居ない浜辺で、海亀とたったふたり、
亀さんの真横に寝そべって星空を見上げながら、産卵を見守り、海に還るまで見届けるという、
かけがえのない刻を過ごしたことです。
今日はそのお話をさせていただこうと思います。

その日葉山の浜でナイトピクニックをしていた私と友人のすぐそばに
海亀は海から上陸してきました。
暗がりの、そのズズ、っと動くおおきな固まりは一瞬、なんのことがわからず、ぎょ、っとなりましたが、
これは、、海亀!
長年海辺に住んでいますが、こんな形での遭遇は初めてです。

息をころして見守る私たちのすぐ先で、海亀はゆっくりと体を砂に沈めるようにしながら、
どうやら卵を産み始める体勢です。
目と鼻の先でいきなり始まったことに少し驚きましたが、とても敬虔な気持ちで見させてもらいました。

亀はまるで、わたしたちに見せるかのように、そして揺るぎなく、ゆっくりと産卵を続けます。
時々、ジュポーっと、卵が出てくる音を聞きながら、その度に亀さんは後ろ足でそこに砂をかけていきます。
その砂も浴びながら、見守らせてもらいました。
私たちがそこに居るのを許してくれていました。ありがとう、亀さん。

そのうち、友人も帰り、私一人で、いつ終わるかしれない産卵を見守ることに。
真夜中に、亀の横で寝そべり、星空を見上げながら、ひとり、
海と星と亀と居る。。
波の音と、亀の砂をかける音だけが静寂の浜辺に滲みわたります。

かなり長い時間が経った後、亀さんは動かなくなりました。
そのまま数十分、、死んじゃったのだろうか、と心配になるころ、またふっと、正気に戻りました。
精根尽き果てて、眠っていたようです。
活動開始した亀さんは、手足4本を上手に動かして、卵の上にたっぷり砂をかぶせ、ついに完了、
その時、深い深いため息を何度かつきました。
すべて終わったのです。

いよいよその場から方向を変え、海のほうへとゆっくりと身体を回し始めました。
還るんだね。
命がけの営み
ほんとうにおつかれさまでした。

私も一緒にその横について、同じ歩調で海へと。
途中、どうしても頭をなでたくなり、つい、撫でてしまいました。。
亀さんは頭を一瞬ひっこめました。 ごめんね。
それでも怖がることなく、歩調も速めることもなく、一緒に波打ち際まで行き、私も海へ。
そして次の波が打ち寄せたとき、亀はその波に乗り、
引き潮と共に真っ暗な海へと吸い込まれ、あっという間に見えなくなりました。

今回、偶然に、浜に上がるところから目撃し、その産卵に立ち合って、
亀がまた海へと還っていくまで幸運にも一緒に過ごすことができました。
当然、非日常の稀なシーンなのですが、なんだか淡々と、当たり前の気持ちで見守ることができ、
海に還るまで見届けることができて、ほんとうに安堵しました。
亀さんが波打ち際まで歩いた足跡も、寄せる波で次々と流れていき、すべてが終わったのは深夜の1時くらいです。
海にかかる星がきれいでした。
ふと、亀は星座を感じて産むところを定めるのだろうか、とも思いました。

この数年は海亀というと悲しいニュースばかりでした。
弱って動けなくなっていたり、死んで打ち上がっていたり、胃袋のなかはビニールでいっぱい、
海の水は有害な化学物質だらけ。。

動物を最優先に自然環境を回復し、整えることは、イコール、人の社会もしあわせすること、と
逆のようですが、そういうことだと強く思うこの頃です。

砂浜で、すぐ隣に寝そべりながら過ごした数時間、
亀は深いメッセージを残して行ってくれたように感じます。

自分のできることをしていこうと思います。

*その後、地元仲間連携プレーで地元水族館、博物館の指導のもと卵は大事に保護されています。孵化がたのしみです。

ウミガメ保護柵1.jpeg

文・写真: 矢谷左知子
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