暦のお話

鏡餅

2018年、また新しい年が始まりました。

今年はどんな世界が開いていくでしょうか。よいことも、そして、わるいと思われることも、しっかり味わったあとは、また軽やかに次へと向かいたいものですね。今回は年の初めに、暦のお話を。最近は和暦をはじめ、宇宙暦まで、さまざまな世界観を持つ暦がありますが、今日は旧暦に関するお話です。



閏月と旧正月

去年は旧暦では閏の月があって、2017年は13ヶ月だった、というのは御存じでしょうか。

わたしたちが今、公的に使っているのはグレゴリオ歴で、これは明治の初めに導入された太陽暦です。それ以前の日本は太陽太陰暦(いわゆる旧暦)といって月の周期をもとにした暦だったというのは、周知のことですが、それでいくと一年に11日のずれが生じ、3年では約一ヶ月ずれてしまうため、3年に一度、13ヶ月にして調整しています。

2017年は5月が2回あるという13ヶ月でした。そのため旧暦のお正月もずれ込み、今年の旧正月はだいぶ遅く、2月16日となります。旧正月というと、立春のころのイメージがありますが、そのように年によって前後し、閏の年には2月の中旬以降になるのです。旧暦新年の挨拶には、新春、という言葉がぴったりということになります。今の新暦のお正月の1月1日はまだ冬のまっただなか、新春の気配はまだまた先ですが、それでも冬至が明けたすぐあと、光の春を感じますね。ピリッとした空気感のなか厳かさもあり、お正月だけは、旧暦よりも新暦のほうが好きです。

さて、今年の旧正月はまだ一ヶ月も先、二度目のお正月のころには、もうウグイスも鳴きはじめているでしょう。



二十四節気と七十二候

もうすぐ「大寒」、そのあと2月の4日には「立春」を迎えますが、それらは二十四節気のなかの季節の節目。太陽の運行をもとに一年を二十四に分けて、月の運行をもとにした太陰暦のずれを正すものとして用いられてきました。夏至、冬至、春分、秋分のように、太陽と地球の動きの中から割り出される決りと、白露や清明といった、季節の節目を現す美しい言葉で成り立っています。

そのように一年を二十四で区分したものを、さらに3つに区切り、5日ごとに季節の気づきの言葉を配したのが七十二候です。「蕗の華さく」「つばめ至る」などのように季節の植物や動物の動き、気象の起り、など、身の回りの風物から、人は季節のうつろいを感じ、それを節目の言葉として表してきました。もともと中国由来のものですが、大陸とこの島国ではそぐわないものもあるため、日本独自の本朝七十二候というものに変化して、今使われているものになりました。「うぐいす鳴く」「涼風至る」など、まさにその日にそれがおこる、ということもよくあり、何千年の季節の読み解きの智慧を、感慨深く感じます。



その他、最近注目されている「土用」について少し。これは雑節という、季節の移り変わりをさらに具体的に掴んでいく節目を表すもので、雑節のなかには、節分や、お彼岸、入梅など身近な暦日があります。

立春・立夏・立秋・立冬、という春夏秋冬の立つ日の前、18日間が土用の期間、よく知られているのは夏の土用丑の日ですが、一年に4回土用はあって、その最後が節分、そして、それが明けると、次の季節ということになります。この土用の期間を上手に過ごすことで、次の季節へ身心の対応がなされるということでもあり、土用の期間の養生は大事なものとされています。
今年はぜひ、土用の効用を意識してみてはいかがでしょうか。



さいごに

草暦1

私は14年前から「草暦」という暦を創っています。
二十四節気、七十二候、雑節、新月と満月のピークの時刻など記した、手書き文字と絵の地味な暦です。
毎年デザインや色が違い、2018年はチャコール色になりました。

草暦3

3

自分の仕事の相棒である、野生の草の事情を記した暦として始まりましたが、年々少しずつ形を変え、2017年は海をテーマにしたものとなり、2018年は、野生の命と人の暮らしの営みの共生、というものを主題においています。

七十二候で、さまざまな動植物のことを書き込む度に、この十数年、彼らへ思いを馳せ、知らず知らずの間に彼らへの祈りをそのなかに織りこむようになりました。

12月の七十二候のなかには「熊穴にこもる」がありますが、果たして今の日本にはそんな奥山があるのだろうか。死んだ森のなかで、食べるものを見つけられない熊たちは冬眠もできず、里に下りてきてみな捕殺されているのが今の状況です。昔からのこうした季節の言葉を書きながら、時に失われてしまった自然の姿を思い、祈らずにはいられません。

暦とは、日々の運行のことだけでなく、全地球の姿も浮かび上がらせる手引きでもあります。

2018年、年頭にそんなことも思いながら、またあたらしい一年、みなさまのご多幸と、生き物たちのしあわせを祈念して、本年もよろしくお願いいたします。

*草暦は湘南のいくつかのお店でお取り扱いしていただいています。
 直送もできます。
 お要り用の方はこちらまで


文・写真 矢谷左知子

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