Brisagram! 海辺の草こよみ vol.4

草弁当

海を臨む森のなか、季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

草弁当2
photo yuichi hori
葉山の海水から自分たちでつくったニガリで固めた自家製豆腐/三浦大根を味付けてフライにした大根カツ/庭のツユクサとゴボウのサブジ など

ときどき「草弁当」なるものをつくっています。
そもそもは逗子の映画館CINEMA AMIGOが始まりです。
4年前のCINEMA AMIGOオープンの時から、日替わりランチシェフの一人として、お昼ごはんを提供することとなり、何にしようか悩んだのですが、自分のライフワークである草とのコラボから生まれるごはん、ということで「草ランチ」「草定食」というネーミングでお出しすることにしました。洋食のときには草ランチ、和食のときには草定食、と。
しだいに友人に頼まれてお届けすることもあったりで、いつのまにか「草弁当」という形ができました。

なぜ、草、がつくのでしょうか。
それは自分のものづくり、暮らし方の主題と一緒で、居住する地域の周りのもの、すぐそばにいてくれる野生のものたちとの共生を大事に思い、そこからの智慧、エネルギーを受けとって、それらと一体となり、自分の身体をとおして次の形にするということ、そのツールが私の場合、野生の植物、ということだからです。その象徴としての「草」。

私の食の基本は玄米菜食です。
ときどきは魚もほんの少しいただきますが、卵や乳製品は摂りません。
野菜はほんとうに多様で、さまざまな調理ができ、それだけで満足できるありがたい食材だなあと思います。なによりおいしい。
草弁当は、出汁も含めて動物性のものは使わない、完全菜食ヴィーガン対応です。
地の野菜中心で、自宅周りの野草も入っています。よもぎ・ツユクサ・蕗・むかごなど、その季節の草たち、そして庭のハーブたち。
それらを摘むときは軽く挨拶します。いだだくね!ありがとう!と。

草弁当0
野菜のお寿司と庭の野草のかき揚げ

食べることは命をいただくこと。
これは避けられない宿命です。
世界には食べずに生きている方たちもいらっしゃいます。そうなったら楽だなあ、他のことがいろいろできるなあ、とも思いますが、いまのところ食はほんとに楽しい出来事のひとつ。

精進料理では、追いかけて逃げるものは食しない、ということがあります。
精進でなくても、一対一で、互いのいのちのやりとりをしながら動物たちを仕留めていた昔の肉食と違い、今の肉食文化は生まれた時から食肉になる為に飼育され、一生身動きできない小屋でお日さまを見ることもなく、走ることも、草を食べることもないまま、そしてその身を命ではなく、部位として処理される動物たちで成り立っている、という、その現実があります。
そのことを私たちはどう考えていったらいいのだろうか、と思うことがあります。

命をいただくことに関しては植物とても、もちろん同じです。
ただ植物は上の芽を摘んでいただくと、また再生してくる、根もルーツとして他へ伸び、また生えてきてくれる。命の区分の線引きがしにくい、或る意味たいへん高等な存在のようにも思います。
でも動物はそのひとりひとりの命の尊重という問題が出てきます。
そのあたりのことは自分のなかでも今とても考えていること。
せめて他の命を自分の命として替えさせていただいている事実はいつも心に留め置きたい。
人間という身に生まれたからには、このことはずっと考えていくと思います。

お弁当籠の中の小宇宙を組み立てる作業はとても楽しいことです。フタを開けた瞬間に命が飛び出してくるような、開けた人の心にパッと光が差し込むような、そうならいいな、と今日も草弁当をつくっています。

草大福
photo yuichi hori
庭のヨモギを摘んでつくった春の草大福


草ケーキ
草のショートケーキwith豆腐クリーム (卵、乳製品はつかいません)

文・撮影 矢谷左知子

草弁当@CINEMA AMIGO 新年

来年2014年の1月CINEMA AMIGO初上映の日、久しぶりに草弁当をお出しします。
その日は私が去年宮古島で出会ってCINEMA AMIGO上映にこぎつけた映画「スケッチ・オブ・ミャーク」の再々上映初日。
宮古島で伝えられてきた神唄、古謡の心震えるドキュメンタリー。
上映後は監督の大西功一さんのコアなトークも。そのあと草弁当(当日は宮古島の野菜をつかった「ミャーク弁当」)をお出しします。
詳細はCINEMA AMIGO WEBサイトで。ぜひ映画とトークとお弁当を楽しんでくださいね。(要ご予約)

スケッチオブミャーク
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。時おり自宅「草舟 on Earth」でワークショップ
時々、逗子CINEMA AMIGOで「草ランチ」を出しています。
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