Brisagram! 海辺の草こよみ vol.20

家に帰る道

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

久々に富士山がきれいに見える日です。

葉山芸術祭では、連日自宅で草の講座、
毎日たくさんの人が家を訪れ、自宅でありながらシェア・スペースの日々でした。
それもようやく終わり、テンテコマイの忙しさのあとのこの静かな平穏の日々に、安堵を味わい
訪れてくださったすべての人や、ここでおこった素晴らしい交感の時間に、
ただ感謝の思いを深くしています。

先日久々にゆっくり出かけたあと、家に帰ってくる道を歩いていて、
あらためていつも歩いている、我が家へのこの家路に胸が高鳴りました。
この先の急坂を下ると私の住んでいる家があります。

家路大

我が家は山の途中にあり、細い山道に面しています。
車はもちろんのこと、急な坂道と階段で自転車での出動も困難、
駐車場へ行くのもまず登山、家からは、はるか離れた上に車を停めて、荷物はすべてここを手で運びます。
坂が急過ぎて、台車も使えない、すべて人力の暮らしです。
灯油や湧き水や、日常の重い荷物もエッチラオッチラ運びます。

でもだからこそ、奇跡的に保たれている生態系があります。
葉山界隈は大変な住宅開発ラッシュで、少し前まで残っていた緑地や木々のある風景がなくなり、
ぎっちりと家が建て並ぶ風景と変わってきています。
この周辺は道が整っていないために、車がつかない、そのため、なんとか残っているエリアなのです。

日々のゴミだしも山の下まで。
収集時間がやけに早いので、朝起きるとダッシュで山の下まで駆け降り、朝日のなか、また山に戻ります。
もっとも生ゴミはすべてコンポストなので、ゴミだしは不燃物やリサイクルのものです。

駐車場まで行って、忘れ物を思い出した時も、山道を駆け降り駆け上がり、
夜、家に帰る時は、真っ暗な山道を月と星のあかりを頼りに帰ってくる、、
そんなハードな暮らしですが、
下界の出来事もここにいると無縁でいられ、
家路の途中で開ける展望には、毎回ため息が出るほどうっとりし、
木々の間から見える海の景色に、島に住んでいるような気分にもなります。

富士

坂ねこ
下からあがるとここを通ります。
わかりにくいですが、かなりの急勾配です。


山に続く庭では、いつもどこかでガサガサっと草や葉っぱをかきわける音。
リスやキジやコジュケイ、タヌキ、そしてうちのネコ。

人の気配のまったくない、小動物たちに囲まれた小宇宙、
便利さとはほど遠い、山の家。
ここに居られる今を、とてもしあわせに思い
町から帰って、この道を通って森のなかに戻ってくる日々を慈しんでいます。

みなさんの家路はどのようでしょうか。
どんな家路もいとおしいと思う、春の夕べです。

入り口
ここから入って、
アプローチ
ここから出かけます。

ジョージ
お隣さん

写真・文 矢谷左知子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」でワークショップ
時々、逗子CINEMA AMIGOで「草ランチ」を出しています。

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