Brisagram! 海辺の草こよみ vol.26

暮らしをつくること

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

窓辺

四国で草のワークショップをしてきました。
葉山から四国に移住した、友人たちが企画してくれ呼んでくれたのです。
うれしく、またしみじみと感慨深いことでした。

ワークショップももちろん素晴らしく楽しかったのですが、
彼の地に移り住んだ彼らの暮らしぶりに、心が揺さぶられました。
今回はそのことを少し。

逢おうと思えば10分ほどで逢えた町内の仲間たちが、
いまや、各地に点在し、自給の暮らしに入っていっています。
今回の四国滞在中、そんな若いファミリーの友人たちの家、数軒に泊めてもらいました。

どのおうちも水は山からの湧き水や井戸水。
水道を引いてはいません。
ガスも引かず、ご飯もお風呂も薪で炊いてくれます。
おみやげに持っていった、みんなのおなじみの逗子のお店のチャイセットをいれてあげるよ、
と気軽につくろうとすると、じゃあ、ちょっと沸かすね、と薪をくべようとしてくれるのです。
そっか、ガスでカチッとひねるのではなかったね、
じゃ、いいよいいよ、また夜ごはんの時にでもしよう。
そんな暮らしです。
もちろん蛇口からお湯なんて出ません。
シャワーなんか存在すら忘れてしまいます。

みどり
タク

いまの私の家も、けもの道のような山道の中腹にあり、何処へ行くのも歩きで登山か下山、
車を停めてあるところまでも山登りで数分、
雨の日には山道は川となり、沢登りの様相、この地域にしては、たいへん不便で、
夜帰ってくる時など、真っ暗闇の急な山道をもののけと共に歩く、肝試しのような立地、
なかなかない場所ですが、それでも15分歩けば、スーパーマーケットもあり、
おいしいコーヒー屋さんもあります。

でも彼らの住む処は、奥まった、果ての感のある僻地といっていいところ。
歩いて15分でやっと隣家、
コンビニもなく、近くの町までは車で30分走ります。
このへんと違い、信号もなくひたすら走る30分の距離は相当です。

みな、おうちは古い日本家屋、土間におくどさん、つまり竃(かまど)です。
家の前には畑と田んぼと川。
昔話の世界です。
土地の持ち主たちはそこを見捨てて、新しい家や場所に移って行った、
長い間打ち捨てられていた、そんな家を借りて、あたらしい息を吹き込み、
一から暮らしを創っていっています。

畑に種を撒き、田で稲を育てる。
自然農で無農薬、無肥料、
昔の家を引き継ぎ、庭先にはヤギやニワトリがいる。
3年前までは、葉山のおしゃれなお店で、ときに顔を合せていた友人たちが
一気に何十年か前の日本の暮らしへ。

むすひ
ヤギ

でもそこには、ワクワクの創造的な日々があります。
火を熾すこと、山の水のパイプの点検、田起こし、動物の世話、
日常、ただ生きるだけに日々がある。
そのひとつひとつが大変であっても、丁寧にやることは、なによりもクリエイティブなこと、
一番の楽しいことでもあるでしょう。

祖父、曽祖父たちの時代の基本の暮らしかたの上に、
今の時代の新しい試みが加わり、長年放置されていた古屋も、うれしそうに活き活きとしています。

自然やまわりの生き物との調和と共生の上にのみ、人の暮らしはあらねばなりません。
その原点に還った、彼らの淡々とした暮らしぶりに、少々胸が熱くなり、
私もまた思いを新たにした、今回の旅でした。

亀

写真・文 矢谷左知子


矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」でワークショップ
時々、逗子CINEMA AMIGOで「草ランチ」を出しています。

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