Brisagram! 海辺の草こよみ vol.29

草の布のおはなし 苧麻(ちょま)布

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

草干し

このところは毎日草まみれの日々。
今が素材採取の最盛期なのです。
そう、それが私の仕事、
今回は私の本業、草仕事の一端をご紹介いたします。

身近な野生の草から糸をつくり布に織る、
そんな仕事をしてきました。
以前、vol.2の記事で葛の布作りや葛布の作品をご紹介しましたが、
今回はそろそろ終わりを迎えた、苧麻の糸つくり、
草が布になるまでのお話です。

草から糸をつくり、織りまでをしてきた私の草仕事では
夏は糸つくりの時季、夏しか生えない草なので、このシーズンに一年分の草を刈り、
皮を剥き、こそげとり、草の種類によっては発酵させ、洗い、糸とします。

草剥き表皮を剥いて
草こそげこそげて糸にします

栽培はせず、野生のものだけを素材にします。
栽培したものは、なんだか自分の素材ではないのです。
仕事は、自生している草を探しに出かけるところから始まるのですが
嫌われ者の草ゆえ、刈られて、ないことが多い、ほんとに効率の悪い労働ではあります。
でも野生ならではの潔い力は、大変に美しく、
そうした野にあるものの力は、今の世界にも必要なもののように思います。

草の採取ゆえに、長年遊べない夏でした。
というか草と遊ぶ夏、でした。

炎天下の汗だくの肉体労働で成り立つ作業です。
海辺に住みながらも、夏はほとんど海にも行けず、ひたすら草と向き合ってきました。
今は布の制作を少し休んでいますので、
海でも泳いだりしながら、楽しみ程度に糸つくりをしていますが、
それでもこれだけは人の都合に合せるわけに行かず、
いつも草の都合、育ち具合に合せながらの作業です。

草糸
草の命の宿ったうつくしい糸

それは図らずも、自然のサイクルに自分を合せるということであって、
様々な手順ゆえに、次々と休みなく展開していく草仕事は、
クルクルに忙しくあっても、疲れるということはなく、
むしろ身体がきれいに整い、通っていくような、ステキな労働です。
ただし現場は虫がたくさんの、蒸し風呂の中のような労働環境・・

でもその中で無心に草と作業する時間はかけがえのないものです。
そこでほんとうにいろんなことを草から、虫から、おそわりました。
自然界のなかに潜んでいるたくさんの智慧を授かりました。

作品1
苧麻の布作品

作品2
苧麻の作品たち

故あって、今は作品の制作をお休みしている期間ですが
草糸つくりだけは、かかすことなく、毎夏続けています。

一本草皮を剥くごとに、身体のなかの要らないものも一緒にはがれていくような、
そんな草の夏、
労働の夏を、
やはり愛してやまない私です。

そうして
草糸の季節もそろそろ終わりを迎えます。
来週は処暑ですね。


作品3


苧麻の作品

写真・文 矢谷左知子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」でワークショップ
時々、逗子CINEMA AMIGOで「草ランチ」を出しています。

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