Brisagram! 海辺の草こよみ vol.46

夏の伝統食品

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

梅干し

毎年梅干しを漬けています。
例年は梅雨の晴れ間や、梅雨明け頃の土用に干す、いわゆる土用干しをしているのですが、
今年はなかなかタイミングがあわず、8月の立秋前後にやっと干し上げ、ひと心地着きました。

土用干しというと、私などは梅干しのこと、と思ってしまいますが、
もともと土用干しとは、梅干しに限らず、衣類や本なども、この時季に干すこと。
虫干しともなり、カビも防ぎ、長持ちする、ということを昔の人はよく知っていて、
この夏の土用には、いろいろなものを干していたようです。
それほどこの期間のお日様の力は強い殺菌力を持っているということですね。

すべてが天然のなかで生きていた、生きざるを得なかった、
長い長い人の営みから積み重ねられてきた智慧は、自然の法則に沿い、
その作用をあますことなく取り入れた、自然界との100%の共生のもとにあります。

梅干しや糠漬けなど、身近だけれど智慧の結晶の食品を作っていると、
地球規模の、大げさに言ってしまうと、宇宙規模の、自然界の働きを日常のものとして感じるような気がして、
そういうものを身体に取り入れることは喜びでもあります。

と、梅干しもさることながら、
実は私は梅酢ほしさに梅を漬けている、といってもいいほど、梅酢を使います。
梅干しを漬け込む過程で出てくる、梅のエキスの妙味にやられているのです。

梅酢3

お料理の隠し味に、抜群の働きをしてくれるの、この梅酢。
他に替わるものは、思い当たらない味わいを持つ、優れた調味料です。

そしてこの湿潤な日本の風土には、なんとピッタリな食品かと、毎度のことながら感嘆の思いで使っています。

サラダやお酢の物はもちろん、味のぼやけた煮物や、カレーの隠し味にも、
梅酢をほんの少し加えるだけで、引き締まった味になります。
おにぎりなどにも、握った後にほんの少しつけておいたりすると、おいしいだけでなく、長持ちする、など
つくづくその偉大さを知るのです。

写真は野菜寿司をつくったときのものですが、
ミョウガの甘酢漬けも、ほんの少し梅酢を入れることで、色も味も深くなります。
*ただし塩味がきついので加減が必要です。

ミョウガ

梅酢には老化防止の働きもあるようですよ。
クエン酸が多く含まれていて、解毒・殺菌作用のほか、老廃物を体外へ排出してくれるのだそうです。

いつのまにか、味噌も梅干しも自宅で手作りすることが、決して珍しくないという時代になりました。
ひと世代前にいったん手を離れ、そうしたものは買うもの、としてきた消費文化のなかで、案外早めに次の世代の手に戻ってきた、
こうした伝統的な智慧の食品。
大切な食の文化を失う前にちゃんと取り戻せたことは、うれしいことです。

他にもすぐれた伝統食品は全国にいろいろありますが、
その国特有の風土から生まれ出た智慧の食品は、いつまでも繋いでいくことが、大切だなあ、と梅干しの完成につくづく思う、
夏もおしまいの、明日は「処暑」の日ですね。
暑さも一段落です。

*処暑 二十四節気のひとつ。立秋のあとの暑さがやわらぐ頃の目安の日。ことしは8月23日です。

うみ

うちの下の海です。

文・写真 矢谷左知子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」草のワークショップ

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