Brisagram! 海辺の草こよみ vol.49

草暦 くさこよみ

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。
表紙

草暦というこよみを毎年つくっています。

手書き原稿の素朴なもので、
旧暦に沿った季節の気づきの言葉、
二十四節気、七十二候、
満月や新月のピークの時間などを記した小さな暦。

吊り

日付の進行が縦方向に進むデザインなので、
カレンダーといえば横形に日程が移り変わる、
ということに慣れている頭の使い方からすれば、
少し戸惑うかもしれません。

今年で11年目の草暦、
毎年デザインも色も違うのですが、
変わらないのは、
カレンダーを綴じている紐は、夏の間に取りため繊維を取り出した野生の草(苧麻)を、
ひとつひとつ自分で綴じているということ。
この時季は地道な紐付けの日々です。

紐といっても均一な紐ではなく、自分で作った草の繊維なので、太さも長さもバラバラ、
とても難儀をしていますが、この草の味わいをお届けしたく、毎年夜なべの紐付け内職です。
ありがたいことに、友人たちの手も借りて、今まさにその真っ最中。

仕様としては、
吊り下げと、折り本の2種類があります。
吊り下げは壁や柱にかけるタイプ、
たいていはみなさんトイレにかけていてくださり、
旅をしてきた友人たちからは、全国津々浦々のトイレに草暦がかかっている、という報告も多く、
ひそかに感激しています。

これまで毎月の頁の絵はそれぞれで完結していたのですが、
2016年版は、始めて絵がひとつらなり、
全体を拡げてみると絵巻物のように繋がっています。
折り本仕様ではその全容をご覧いただけるようになっています。

折り1
折り2

今回の暦、描き始めには、そう思わなかったのですが、
描いているうちに、それは私が暮らすこの山の風景であり、
生きものたち、植物たちなのだということに気づきました。

そのことに気づいたとき、
暦というのは単に月日の推移のことではなく、
自分の棲む風土と自分との関係、
自分をとりまく環境の、季節ごとの動物、植物の営み、
月や太陽や星の運行、
それらが壮大に絡み合ったものなのだということを
あらためて実感させられました。

11年目の草暦、
たくさんの命を乗せて迴る、小宇宙。

逗子、葉山、鎌倉などのお店でぽつぽつと置いていただいています。
どこかで見かけた時には、お手にとってご覧いただけましたら幸いです。

枯れ実

文・写真 矢谷左知子

矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」草のワークショップ

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