Brisagram! 海辺の草こよみ vol.56

葛の花と葛の織物

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。

大気が澄み、
空の青が透明となり
一筋のひんやりした風の流れを感じる時節
そこに梨でもいただいてしまったものなら、、
あー、夏は終わったのねえ、と、
しみじみ季節の移ろいの妙に浸ります。
(きのうの私です)
それにしても梨や葡萄は一気に秋感を運んでくれる果物ですね。

道を歩いていると、どこからともなく、葛の花の香りがして来るのも、この時季
葡萄のような色をした、葛の花
気がつくと、そこここに。
秋の七草のひとつにも入っています。
その香りも色と同じく、どこかブドウに似た芳香、
やわらかく渋めの、臙脂色は、この国の風土に馴染んだ落ち着きのある色合いで、
立派な姿のわりには、主張するように飛び出ては来ず、
初秋の素敵な景色のひとつとして、草野に佇んでいてくれます。

葛の花

夏の間、旺盛に延び盛っていた葛も、この花が咲くころになると、ピークを終え、
急速に力を無くしていくよう、次の植物と交代です。

私はこの葛の蔓から糸をつくり、葛布を織ってきました。
葛は、その根は葛粉となりますが、蔓の部分は繊維となる、たいへんに有用な植物、
葛粉は葛根湯として漢方薬にも使われています。
いまでこそ、延び盛ったそのツルは, 夏の大いなる嫌われ者ですが、
繊維として衣料や生活のものを布に織ってきた歴史も長いのです。

ツルは採ってロープ状にしてからすこし煮出し、数日発酵させます。

IMG_0034.jpeg
そのあとよく洗いをすると、輝く光の糸となります。

葛糸

葛粉も照りの美しい食べものですが、
葛の糸も同様に、煌めきを秘めた繊維となる、
そうした自然界の恩恵には、
いつも現す言葉がみつからないほどに、心を揺さぶられます。

そして、道具として、薬として、その植物の特性を次の形にしていく
人類という存在にもまた、いつも面白味を感じます。
植物と人は、そのように、いつも情報を交換しあってるのだなあ、と思うのです。

葛はその強い生命力で一面を覆い尽くすこともあり、
やっかいものに思われていますが、
現代では、その有用性を活かしきれず持て余してるだけのこと、
一面から見たら、役立たずの迷惑なものが、
もう一面から見れば、宝そのもの。

実は宝ものは、すぐそばにたくさん溢れているのですね。

そんなことを、夏の終わりの風景のなかに感じながら、
今日は二百十日
風の強い日、まさに。

次の季節もすこやかに繞りますように。

葛布大


写真・文 矢谷左知子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
「草舟 on Earth」にて、毎月草のワークショップ

ブログ
草舟 on Earth
草虫こよみ
Follow me!