Brisagram! 海辺の草こよみ vol.47

草からおそわる *from月桃

季節の草に囲まれて草とともに暮らす草文化探求の矢谷左知子さんの湘南の自然の中での暮らしの一コマをお伝えします。
月桃

この数日、ぐっと秋が深まりましたね。
陽の暖かさを求めて猫が日向ぼっこするようになりました。

相変わらず草にまみれた日々を過ごしています。
身の周りの草からの恩恵は計り知れなく、いまや日々、植物によって生かされているといってもいいかもしれない、というほどに、
草と過ごす至福の時間が多くなっています。

今日はその中で、庭の月桃にスポットを当ててみましょう。

月桃って、ここでも育つの?と思われるかもしれません。
沖縄で生息している植物ですが、うちの庭には自生しているのです。
冬も青々と元気に伸び盛っています。
この辺りは冬も暖かいということですね。
今年の春には周りのツルなどを取り除いたり、日当たりをよくしてあげたので、いっそう株も大きくなってきたようです。

この月桃にも大変お世話になっていて、毎月している「草講座」(草のワークショップ)では、庭の月桃から紐をつくり、
それで籠を編む講座もしています。
月桃の茎の皮を剥ぎ、細く割く作業のときは、茎の繊維から清冽な草しぶきを浴びます。
細胞が甦る思いがし、参加者の方たちも、感嘆する瞬間です。
草の命が次のものに移しかえられる瞬間でもあります。

ひもたて

かご

庭に生えている草から紐が作れるだけでも、うれしくて、豊かな心持ちになりますが、
戦前くらいまでは身の周りの植物から紐や縄や道具類を作る暮らしは当たり前でした。
いまではホームセンターなどで買った紐を、考えもなく使っていますが、
自分で草から紐を作ったりしてみると、ハサミを入れて切ることさえためらわれる感覚にハッとします。
そうした、植物とともにあった自然界との共生を体感する時間が草講座です。

おちゃ

月桃から作った紐で籠を編んだあとは、
ティータイムでひと休み。
その葉を煮出してお茶にして愉しみます。
乾燥した葉とは違って、フレッシュな葉のお茶は、
たくさんのスパイスが入っているかのような
すばらしい芳香のお茶になります。

化粧水

余った月桃では化粧水も作り、毎日使っています。
地肌にも心地よく、数種類ある自家製の化粧水のなかでも、私のお気に入りです。

沖縄ではその葉にお餅を包んで蒸すムーチーという食べ物がありますが、
葉や茎、全体から立ち上る、独特の香しいかおりは、身が清まる思いがします。
抗酸化作用もあるので、葉に包んでおくことで、食べ物も長持ちさせることができます。

日々、植物たちからの恩恵を受けていると、彼らはまるで、人間のために生きていてくれるかのように思うことさえあります。
それは例えば、皆に嫌われる’雑草’と謂われ、はびこる草でさえも、
人の心身にとっては本来素晴らしい扶けをしてくれていることからも、そのように思われるのです。
実際、庭の草たちにはたすけてもらうことばかり。
ありがたい命たちです。

植物とともに歩んでいくことが、これからの人類にはとても大切なことと感じる毎日です。
採りすぎることなく、次の再生を見守りながら、共生していくことが大事です。

まわりの草たちをあらためて見つめてみてくださいね。
いろいろなことを教えてくれています。

*この月桃の籠編み講座は10/18にも開催します

文・写真 矢谷左知子
矢谷左知子 プロフィール

草文化探求 / 草の翻訳
身の周りの野生の草を主題に、草から繊維をとり糸にして布を織る「草の布」の制作を長年。近年は草をテーマに、染織はもとより食や癒、道具、暦などさまざまな草文化の探求とワークショップ、ナチュラルなグラフィックデザインの仕事などしています。
海辺の山の中の一軒家に住んで、人よりも草や小動物や星のほうが近い暮らし。海で泳ぐのが大好き。山をうろつくのも大好き、
いい年をしてスラックライン(ツナ渡り)も得意です。
時おり自宅「草舟 on Earth」草のワークショップ

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