湘南PEOPLE VOL.12 安野モヨコさん
2012.09.22
鎌倉に居を構えて5年、四季を楽しみながら『オチビサン』で新たな作風を描く、漫画家の安野モヨコさん。「素材の宝庫」というこの地での、心豊な暮らしぶりを、楽しく語っていただきました。
― 安野さんというと『美人画報』や『働きマン』など、時代の先端を行く女性を都会の真ん中で描かれているという印象があります。なぜ鎌倉に家を?
安野 まったくの偶然なんですよ。家を探していたときに、都内では気に入るところが見つからず、あるとき、食事した編集者に相談したんです。すると「都内でなくてもいいんじゃないですか?」という答えが帰ってきたんです。ある作家の方は、湘南に住まわれていて、5時に起きて走り、昼間にきっちり仕事して夕方は自分のための時間にしていると。「それはいい!」と、盛り上がって。
それで、なんとなく湘南方面の不動産の資料を請求したら、元気いっぱいな営業の男の子が毎日電話をかけてきてくれて。「とにかく一度、見に来てください」とあまりに言うものだから、夫とドライブがてら、あまり深く考えずに、鎌倉に来たんです。
安野 まったくの偶然なんですよ。家を探していたときに、都内では気に入るところが見つからず、あるとき、食事した編集者に相談したんです。すると「都内でなくてもいいんじゃないですか?」という答えが帰ってきたんです。ある作家の方は、湘南に住まわれていて、5時に起きて走り、昼間にきっちり仕事して夕方は自分のための時間にしていると。「それはいい!」と、盛り上がって。
それで、なんとなく湘南方面の不動産の資料を請求したら、元気いっぱいな営業の男の子が毎日電話をかけてきてくれて。「とにかく一度、見に来てください」とあまりに言うものだから、夫とドライブがてら、あまり深く考えずに、鎌倉に来たんです。
― 初めての鎌倉の印象はどうでしたか。
安野 鎌倉山。浄妙寺。二階堂。夫と「鎌倉っていいところだねえ」という点では一致したのですが、物件は一長一短で、夫婦の意見が一致せず、決めきれませんでした。「最後に1ヵ所だけ見てほしい場所がある。家は古くて取り壊すので、土地だけ見てほしい」と言われて行ったら、取り壊すはずの家を私も夫もすっかり気に入りました。その日まで鎌倉に住むというイメージは一切なかったのに、その古い家屋に夫婦揃って一目惚れで、即決してしまいました。
― 実際に住んでみた鎌倉はいかがでしたか。
安野 夜が暗くてびっくりしました。夕方6時にお寺の鐘が鳴ると、みんなおうちに帰る感じでしょう(笑)。都内の夜中の2時くらいのレベルで人がいなくなる。静かさにもびっくりしました。それと、目に入ってくる植物の種類と量がいっぱいで、絵を描くための、素材の宝庫です。1週間違うだけで違う花が咲いたり。アスファルトと縁石の間にスミレが咲いているのを見たときは本当に感激してしまいました。花の種類になんてまったく興味のなかった夫も「あの花はなーに」と聞いてくるようになりました。
安野 鎌倉山。浄妙寺。二階堂。夫と「鎌倉っていいところだねえ」という点では一致したのですが、物件は一長一短で、夫婦の意見が一致せず、決めきれませんでした。「最後に1ヵ所だけ見てほしい場所がある。家は古くて取り壊すので、土地だけ見てほしい」と言われて行ったら、取り壊すはずの家を私も夫もすっかり気に入りました。その日まで鎌倉に住むというイメージは一切なかったのに、その古い家屋に夫婦揃って一目惚れで、即決してしまいました。
― 実際に住んでみた鎌倉はいかがでしたか。
安野 夜が暗くてびっくりしました。夕方6時にお寺の鐘が鳴ると、みんなおうちに帰る感じでしょう(笑)。都内の夜中の2時くらいのレベルで人がいなくなる。静かさにもびっくりしました。それと、目に入ってくる植物の種類と量がいっぱいで、絵を描くための、素材の宝庫です。1週間違うだけで違う花が咲いたり。アスファルトと縁石の間にスミレが咲いているのを見たときは本当に感激してしまいました。花の種類になんてまったく興味のなかった夫も「あの花はなーに」と聞いてくるようになりました。
― ちょうど鎌倉に住まわれた頃に『オチビサン』が朝日新聞で連載され始めたのですよね。
安野 そうなんです。2007年ですからね。『監督不行届』というエッセイ風コミックが話題になった後だったので、そんな連載をしてほしかったのかも(笑)。でも、私は一枚絵で、切り取っておきたくなるようなものをやりたいと思ったんです。たとえば外国人の方がたまたま日本に旅行に来て、ホテルで新聞のその絵を見て、切り抜いて帰りたくなるような、ね。
― 画風も、ほのぼのとして、色がとても美しい漫画ですね。
安野 ありがとうございます。『オチビサン』は、普段とは違う方法で着彩しているんです。版画とかステンシルのような手法なのですが、1カットに5〜6枚、多いときは7〜8枚の版をつくるのです。赤なら赤く塗るところを切り抜き、そこにスタンプで色を入れていく。昔の印刷の版ズレみたいな味のある感じになったらいいなと思いまして。
安野 そうなんです。2007年ですからね。『監督不行届』というエッセイ風コミックが話題になった後だったので、そんな連載をしてほしかったのかも(笑)。でも、私は一枚絵で、切り取っておきたくなるようなものをやりたいと思ったんです。たとえば外国人の方がたまたま日本に旅行に来て、ホテルで新聞のその絵を見て、切り抜いて帰りたくなるような、ね。
― 画風も、ほのぼのとして、色がとても美しい漫画ですね。
安野 ありがとうございます。『オチビサン』は、普段とは違う方法で着彩しているんです。版画とかステンシルのような手法なのですが、1カットに5〜6枚、多いときは7〜8枚の版をつくるのです。赤なら赤く塗るところを切り抜き、そこにスタンプで色を入れていく。昔の印刷の版ズレみたいな味のある感じになったらいいなと思いまして。
― なるほど。この味わいのある絵は、他の漫画家が使わない手法から生まれていたんですね。キャラクターもとても可愛くて、みんながスープが冷めない距離で一人暮らししているというのも、素敵ですね。
安野 連載開始時に、朝日新聞の人と話していたら、朝日新聞の読者は幅広いから、70代の女性もいるんですよって言われたんです。漫画誌で描いているときに、そんな読者を想定したことがありませんでした。そこでいろんな層の方に楽しんでもらえるマンガを描きたいと思ったんです。そんな風に考えだすと、家族もののほうがファンタジックに思えてきて。仲間といい距離を持ちつつ、楽しく暮らすというキャラクターたちのほうがリアルじゃないかって…。
安野 連載開始時に、朝日新聞の人と話していたら、朝日新聞の読者は幅広いから、70代の女性もいるんですよって言われたんです。漫画誌で描いているときに、そんな読者を想定したことがありませんでした。そこでいろんな層の方に楽しんでもらえるマンガを描きたいと思ったんです。そんな風に考えだすと、家族もののほうがファンタジックに思えてきて。仲間といい距離を持ちつつ、楽しく暮らすというキャラクターたちのほうがリアルじゃないかって…。
― 昨年は、鎌倉のギャラリーで個展をされたようですが、どんな読者の方が来られましたか。
安野 私のこれまでの読者層である同世代の方たちに加え、すごくちっちゃい子どもとおばあちゃんも来てくださってうれしかったです。鎌倉での個展は今年も催す予定です。
― それは楽しみですね。もうずっと鎌倉にいらっしゃるのでしょうか。
安野 都内にも仕事場があるので、行ったり来たりですが。でも鎌倉で感じる季節の移り変わり、風の匂い、体温や皮膚感覚で感じるものをこれからも大切にしていきたいと思っています。雨の匂い、草花の匂い、秋の匂い。聴こえてくる音も全然違いますからね。こちらに戻ってくると、本当にほっとするんです。都内だと家の中に虫がいたら叫び声をあげるのに、もうこちらでは「どこかに虫がいるらしい」という感じで気にならないから不思議ですよね。
こちらに暮らす方達が、お月見とか季節の行事を大事にしていらっしゃる姿も新鮮でした。都会にいるとクリスマスやハロウィンで張り切るけど、日本の行事をもっと大事にしたいですよね。
― そうですね。季節毎に食も豊かですしね。
安野 はい。美味しいレストランもたくさんあって、本当に楽しんでいます。
― 『オチビサン』が食べているものも美味しそうですものね。これからも、連載を楽しみにさせていただきます。ありがとうございました。
安野 私のこれまでの読者層である同世代の方たちに加え、すごくちっちゃい子どもとおばあちゃんも来てくださってうれしかったです。鎌倉での個展は今年も催す予定です。
― それは楽しみですね。もうずっと鎌倉にいらっしゃるのでしょうか。
安野 都内にも仕事場があるので、行ったり来たりですが。でも鎌倉で感じる季節の移り変わり、風の匂い、体温や皮膚感覚で感じるものをこれからも大切にしていきたいと思っています。雨の匂い、草花の匂い、秋の匂い。聴こえてくる音も全然違いますからね。こちらに戻ってくると、本当にほっとするんです。都内だと家の中に虫がいたら叫び声をあげるのに、もうこちらでは「どこかに虫がいるらしい」という感じで気にならないから不思議ですよね。
こちらに暮らす方達が、お月見とか季節の行事を大事にしていらっしゃる姿も新鮮でした。都会にいるとクリスマスやハロウィンで張り切るけど、日本の行事をもっと大事にしたいですよね。
― そうですね。季節毎に食も豊かですしね。
安野 はい。美味しいレストランもたくさんあって、本当に楽しんでいます。
― 『オチビサン』が食べているものも美味しそうですものね。これからも、連載を楽しみにさせていただきます。ありがとうございました。
安野 モヨコ
1971年生まれ。89年に「別冊フレンド」誌上でデビュー。95年、「FEEL YOUNG」に連載された『ハッピー・マニア』が大ブレイク。その後、『花とみつばち』 『監督不行届』『さくらん』『シュガシュガルーン』『働きマン』や美容エッセイ『美人画報』などヒット作を多数生み出し、その中のいくつかの作品はドラマや映画となった。現在、朝日新聞月曜日朝刊で『オチビサン』を週刊連載中。
安野モヨコオフィシャルサイト http://www.annomoyoco.com/
安野モヨコオフィシャルサイト http://www.annomoyoco.com/
オチビサン
朝日新聞月曜日朝刊で好評連載中。犬の「ナゼニ」や「パンくい」という愉快なご近所さんと共に自然に恵まれた豆粒町に暮らすオチビサンの日常が描かれています。季節のうつろいを感じるほのぼのとした作品。源氏山や由比ケ浜など鎌倉でおなじみの場所が登場します。英訳付きで楽しく英語も学べます。
オチビサン公式ショップ まめつぶ屋 http://www.mametsubu-ya.com/
オチビサン公式ショップ まめつぶ屋 http://www.mametsubu-ya.com/