湘南PEOPLE VOL.15 畠山美由紀さん

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類いまれな表現力に恵まれたディーバ

ソロデビューから12年、松任谷由実、セルジオ・メンデスらと共演し、世代や国境を越えてファン層を広げている畠山美由紀さん。近年は、東日本大震災で被害を受けた故郷、気仙沼を歌ったアルバム「わが美しき故郷よ」で心を元気にしてくれました。新アルバム「rain falls」では、気鋭のプレーヤーと共演。類いまれな表現力に恵まれたディーバに、7月から始まるツアー、鎌倉での生活についてお聞きしました。
― 新アルバム「rain falls」の「夜と雨のワルツ」は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

畠山 雨の日のアルバムというコンセプトは20代の頃からあたためていました。子どものときから雨の日がすごく好きだったので。雨音がして目覚めると、いいな、と思うタイプでした。集中できる感じとか。頑張って色んな事しなくていいよ、という感じとか。
2.jpg― 作詞は?
 
畠山 中島(ノブユキ)さんが忙しかったので、製作期間に1年かけさせてもらいました。必然的に歌詞を書く時間も長くとれて、自分が読んでいた本との関係もあって生まれました。分からないながら、登場人物に文章に惹かれて10年来ずっと読んでいたマルグリット・デュラス『ロル・V・シュタインの歓喜』が、ある日、どういうことか分かったような気がしたんです。そのテーマが「夜と雨のワルツ」にふさわしい感じがして。

― 「あなたが思うよりも人生は短く あなたが思うよりもはてしもない」という詞は、「ゴンドラの唄」や西條八十の歌謡のような日本人の“こころ”を感じるのですが。

畠山 マルグリット・デュラスの著作だけでなく、被災地の情景、家族のことも絡んできたり、自分も年齢を重ねて、家族を失ったりして(この詞を)実感しました。日記などに書いたのがポロッと出たんでしょうね。じつは、始めはスキャット(歌詞なし)でやろうとしていたくらいで、このフレーズだけがあった。一見、読むと不思議な詞だと思います。そういうことで浮かび上がってくる何かがあると思うので、そういうやり方で書いてみました。
7.jpg― 「夜と雨のワルツ」は、19世紀末を思わせるジプシー音階で、たった3分程なのに壮大なスケールを感じます。

畠山 (ミュージックビデオも)いいグルーブ感でカッコいいですよね。このテーマで自分がのぞんだのは、あまり会ったことない人なんだけど、ふと昔の話をしちゃうとか、なんとなくその人の本質にふれるような話をしちゃうとか。そういうことが考えられるような雰囲気。うわべの話をしなくて、本当の話しかしたくない、みたいな。

―このアルバムは、タイトルどおり雨の日に聴くべきなのでしょうか。

畠山 どちらかというと夜向け。1曲目とかは爽やかな感じだし。どんなシチュエーションでもいいけれど、BGMとしてではなく、一度、夜とか雨の日に聴いて欲しいのかな。でも、全然いつでも聴いて欲しいです(笑)
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― どんな子ども時代を過ごしたのでしょうか。

畠山 4歳からピアノを始めましたが下手で、自分が音楽を仕事にするなんて思いもよりませんでした。カーペンターズやビートルズを聴き始めた頃から、音楽って特別な感じがするな、と思いました。子ども時代は、色んな事に敏感だった気がします。今思うと懐かしいですけどね。子どものときはつらかったけど。

― そこから音楽が生まれることも?失ってしまったから?

畠山 あのとき感じたことは、今でもあまり変わってない気がします。たまに(情景が)同じように見える瞬間があると、なんかたまらなくなっちゃいます。(涙ぐむ)震災もそう、自分が大人になって失ってしまったものも多いですね。
3.jpg― 前作から音楽を作る姿勢は変わりましたか?

畠山 歌が言葉として通じるっていう重要性を、よりいっそう感じています。何を言っているのか分かるように。震災後、自分の故郷で歌ったとき、メッセージとして伝わらないと意味がないなぁ、と。被災地では、皆が知っているような大きな人数に届く歌を選びました。子供もいるし、お年寄りもいるから、優しい曲、聴きやすい曲、ちゃんと意味がしみわたってくるような曲を選びました。

― 声を張り上げないのは何故ですか。

畠山 黒人の人達のような張りのあるソウルフルな表現はできないな、と若い頃から思っていて。(私は)大きい声を出せば出すほど聞こえなくなる声というか、届かなくなるタイプ。絵画で言うなら、筆で擦れたような部分とか、微妙なニュアンスで伝えたいな、と思っています。ちあきなおみさんやボサノヴァが大好き。

― 心地よさ重視でしょうか。

畠山 (聴く人が)気持ちを乗せやすいように、余裕がある感じ。もちろん、ソウルを聴かないワケじゃないけど、(自分は)ニュアンス重視の曲のほうが多いですね。だから、アレンジはできないけど、音響にはかなりうるさいです(笑)
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― 鎌倉に暮らすようになって何か変わりましたか?

畠山 東京にはない静けさがあります。仕事がなければ21時就寝。あとは、鳥の声で目覚める暮らし。昨日までずっと雨で、今朝、やたらと小鳥のさえずりが聞こえるなと思ったら、小鳥が「ホーホケピー」って練習してるの!朝6時前くらいに雨あがったら嬉しかったみたいで、すごく下手で主人と笑っちゃいました。

― わんちゃんを3匹も飼ってらっしゃるとか。

畠山 ポメラニアンと保護された雑種の日本犬を飼っています。もともと猫を飼っていて、里親ボランティアの人をお手伝いしたりしていました。まわりのミュージシャンに声をかけたり、今まで(里親が)見つからなかったことはありません。
里親ボランディア「ココニャン一家の縁結び」

― さいごに、ツアーの見どころは?

畠山 メンバーが編成が面白いのと、一人ひとりの音色がいいところ。とにかく、まわりのミュージシャンがすばらしいです。中島ノブユキさんのピアノは響きがすばらしいし、藤本一馬(orange pekoe)さんの音色は、隣で演奏を聴いているだけで若返る気がします(笑)コーラスのラインで世界を作っているところが大きいので(コーラスは)欠かせないよね、ということで真城めぐみ(ヒックスヴィル)さんに参加してもらって、それも楽しみです。アルバムの音源を再現するのは無理ですけど、違った魅力でお届けしたいと思います。

畠山美由紀プロフィール

宮城県気仙沼出身。1991年上京後、10人編成のダンスホール楽団“Double Famous”のヴォーカリストとして活躍する中、ゴンザレス鈴木率いる“SOUL BOSSA TRIO”のフューチャリング・ボーカリストとしてCDデビュー。後、ギタリスト・小島大介とユニット“Port of Notes”を結成。 2001年にシングル「輝く月がテラス夜」でソロデビューを果たす。2011年12月に東日本大震災で被害を受けた故郷・気仙沼を想いアルバム「わが美しき故郷よ」を発表。その後、全国30カ所にて同名の全国ツアーを開催。2013年6月5日に待望の6枚目のアルバム「rain falls」を発表。7月21日からrain fallsツアーが開催される。また、7月24日にリリースされるブラジル音楽の世界的巨匠セルジオ・メンデスのアルバム「RENDEZ-VOUS」に参加。

http://hatakeyamamiyuki.com/

畠山美由紀 “rain falls” TOUR

・7/21(日) 東京/草月ホール SOLD OUT!
・8/04(日) 山形/山形県郷土館「文翔館」議場ホール
・8/18(日) 福岡/イムズホール
・8/25(日) 仙台/戦災復興記念館
・9/12(木) 大阪/umeda AKASO
(撮影 斉藤有美 取材・文 柴田明日香)
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