湘南PEOPLE VOl.40 岡崎友子さん

 ハワイ、マウイ島には、冬になると「ジョーズ」と呼ばれる数十フィートを超える巨大な波が届きます。その大波を目指して、世界中からトップレベルのビッグウェーブサーファーたちが集まり挑戦。そんなチャレンジの第一人者とも言われる伝説のサーファー、レヤード・ハミルトン、そしてデイブ・カマラさらにサーフィンの神様、ジェリー・ロペスたちが波や風を駆使していろんな楽しみ方をしているのを長年見てきたウォーターウーマン。オーシャン・アスリートの岡崎友子さんは、由比ヶ浜で生まれ育った生粋の鎌倉っ子です。彼女が、ちょうど日本に戻って来ているというので、由比ヶ浜の実家を訪ねてみました。

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 「エクストリームスポーツ」という言葉を聞いて、すぐにイメージできる人はどれだけいるでしょうか。危険な挑戦や過激な要素を含み、一般の人がなかなかできない離れ業を特徴としたスポーツの総称として使われるカテゴリー。友子さんは、オーシャンアスリートの中でも、そんなエクストリームスポーツのニューウェーブを導くプレイヤーであり、その目撃者として人生を歩んできました。

体の弱かった女の子が、ウィンドサーフィンに恋い焦がれ

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子供の頃は運動があまり得意ではなく、体も弱かったという彼女。人生を変えるきっかけになったのは、ティーンエージャーのはじめに由比ヶ浜の海で見た、波を切って気持ち良さそうに走るウィンドサーファーの姿でした。当時、サーフィンやウィンドサーフィンをする人の姿は今ほど多くなく、ましてや女性の姿は稀。どうしたら始められるのかも見当がつかなかったそうです。高校1年生のときにやっと体験することが出来、すっかり「恋に落ちた」と言う友子さん。その後、想いはどんどん募っていき、大学進学を機にいよいよウィンドサーフィン一筋の日々が始まります。

「マウイはウィンドサーフィンのメッカで、そこで認められれば世界に認められたことになる」。逗子の先輩の「マウイなら風を待たなくても毎日練習できるから、すぐ上手くなれる」という言葉に導かれるように最初は3ヶ月、次の年には大学を休学し8ヶ月滞在。その後、全国大会で上位に入り始めると、プロとして扱われるようになり、雑誌などでも取り上げられるように。ハンドメイドの水着を作ったりしながら費用を貯め、春と秋にマウイで行われる大会に出場、年に合計半年ほどの長期滞在をしていました。

エクストリームスポーツの目撃者として

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 卒業後には生活の拠点をマウイに移し、ウインドサーフィンの「ウェイブ」部門で、世界ランキング2位という成績に輝きます。自分の活動はもとより、ハワイでのマリンスポーツの歴史を間近で感じながら暮らしてきた友子さん。レヤードやデイブとも、20代からの海での「仲間」です。彼らを真のウォーターマンとして尊敬し、多くの影響を受けている一方で、彼らからの大いなる信頼を得ています。そこにいて、海での遊びに好奇心旺盛なマウイのサーファー達が考え出したカイトサーフィンやSUP を、女性で最初に挑戦したのが友子さんだというのは驚きますが、それも近くにいたからごく自然の流れだったようです。この二、三年で話題になってきているフォイルもいち早く乗り始め、今回の帰国前にマウイで新たに登場した「ウィング」というギアもすぐに手に入れたけれど、「日本では練習ができていない! みんなどんどん上手くなっているんですよ!」と笑いながら悔しそう。心はいつも新たな挑戦に向いています。

 海のイメージの強い友子さんですが、実は雪山の世界でもかなり「エクストリーム」に足を踏み込んでいます。ウィンドサーフィンのオフシーズンに始めたスノーボードでしたが、すっかりはまってしまい雪山に通いつめ、世界のトップレベルのスノーボーダーと共にパウダースノーの急斜面を滑り降りる強者です。ビッグマウンテンライディングのメッカと言われる、アラスカへは10年以上通いました。

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photo by hiroyuki saita

「アラスカはいるだけですごいパワーがあります。押し潰されるような圧倒感。タフでないとへこたれて、すごく疲れるんです。でも帰ってくると、また行かずにはいられない魔力がある」。

生かされていることを実感できるから

なぜそれほどまでにエクストリームな世界に身を置こうとするのでしょう? 

「私自身がやってることは全くエクストリームだとは思っていません。いるところはすごい場所でも自分のしている動きはチマチマしてて逃げてばかりで、全然エクストリームではない。でも怖いほどの大自然の中で自分がちっぽけなものだと知ること、そういう状況にいるのが好きなんです。ハードな中で打ちのめされても、その中でなんとか頑張っているところに喜びがある。自然のもとで、自分自身と向き合うことがいい。そして緊張感と謙虚になる気持ちが好きだから」と、理由がどんどん語られます。その根本にあるのは厳しい自然に抱かれつつ、生かされているということを実感し、感謝しているということ。

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photo by clark marritt

 友子さんの第一のポテンシャルは、何かに夢中になるとその度合いが人並みはずれていること。そのことに向ける真っ直ぐなエネルギーが彼女をエクストリームな世界へと導きます。器用ではないから人の3倍時間がかかる、「でも3倍の努力をすれば、実現できるということも学びました」と自分の速度を大切にしています。同時に自然の中で危険から回避できるかどうかに関しては誰よりも慎重で、迷惑をかけないように自分の実力をいつも謙虚に判断しているのです。
「社会的な常識があまりあるとはいえない人間かもしれませんが、最低限の人生勉強は海で教わったと思います。反対にどんなことでも海から教わったことで適応できるのではないかと、、、」。そう過去を振り返りながら「わたしにとって海のない人生はありえない」と言います。「自然は、頑張れば頑張るほど、ご褒美をくれます」。練習を積み、準備し挑む。彼女自身がとことん追求した結果の自然からのいただきものは、たとえば『大会で勝つ』といったこととはレベルが違うのだと。

自然からのギフトを次の世代へと

 そんな彼女が「自然からこれまでもらってきたギフトを次の世代へと渡していきたい」と、2011年の東日本大震災の後に海でのキッズキャンプを始めました。こうすべき、ということより、海でも、山でも、自然のフィールドで遊んで欲しい。その恩恵を受けて、自然のありがたみがわかれば、それがなくなったらどうなるかイメージできる大人になるのではないかという思いがあります。

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photo by hiroshi ito

 また、今年5月から立ち上げた「Trash 2 Treasure〜ゴミを宝物に」(*1)というオンラインコンクールは、ビーチクリーンで集めたプラスティックごみを使って、楽しみながらゴミ問題や自然環境に対する意識を高めようというものです。そしてマウイ島での環境汚染の話や、ハワイ島で起こっているマウナケアでの大型望遠鏡の建設問題などを含め、さまざまな思いが「自然」に向き合い生きてきた友子さんならではのフィルターを通してわたしたちに伝えられます。

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 自分の世界を強く持つことは、生きる上での何よりも大切なこと。10代のころの好奇心と探究心は、年を重ねても少しも変わることがありません。「うまくなりたい」と彼女は言います。でも前は人の3倍かかって何かをやってきましたが、今は人の三分の一の進歩があればいいと思えるようにもなってきていると。

好きなことを迷わずやり続けること

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 3年前、この同じ部屋で会った時に「マウイのアウターリーフに立つ波にいつかピークから乗りたい。それが自分の人生での目標」だと話していた彼女。そこはチューブの巻く15-20ftの波がブレイクするポイントでもあるけれど、「それが割れるか割れないかの時に立つ6−8ft級の波にチャレンジしたい、それくらいが私には精一杯のサイズ。でもショルダーからではなくきちんとピークからテイクオフできるようになりたい」。その夢を追いかけ、この冬のシーズンに向けてのトレーニングがマウイで始まったころです。アスリートとして歩んできた道とこれから歩む道を静かに見据える彼女は、常に自然と共に生きることを選んだから、人生はとても豊かになったと実感しています。その根底には、思いがあれば実現することを信じて、好きな事だけをやり続けてきた自分がいます。

maui.jpgphoto by Jimmy Hepp

 由比ヶ浜に出ましょうとゴミ拾いのバケツを下げた彼女は、強い日差しの中に季節の変化を感じたのか「もうすっかり秋ですね」と。こちらに向けた無邪気な笑顔は、まるで自然からの祝福を受けているように澄んだ光に包まれていました。

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interview & text : sae yamane
photo : yumi saito
coordination : yukie mori

岡崎友子 おかざきともこ

オーシャンアスリート
1966年、鎌倉生まれ。マウイを拠点に世界中を旅する。16歳でウインドサーフィンを始め、大学時代よりプロウインドサーファーとして活動。1991年にはウェイブライディングの世界ランキング2位に輝いたほか、多くの大会で好成績を納める。その後、活動のフィールドを広げ、スノーボードではアラスカをはじめ、大きな山を滑る初の日本女性スノーボーダーに、またカイトサーフィン、スタンドアップパドードでは女性のパイオニアとなった。いい波や風、雪を求めて旅を続けるスタイルを貫き、旅や出会った人たちから受けるインスピレーションをテーマにフリーランスのライターとして執筆。自らの経験を生かし、海や自然を通してさまざまな体験を楽しむキャンプやツアーを企画。子供たちの自然に対する感性を育む活動にも力をいれている。
オフィシャルサイト
ブログ "WINDMAIL DIARY"
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*1 Trash2Treasure
幼稚園以下から、大人、団体まで、6つの部門で、海で拾ったゴミを使ったアート作品を競うオンラインコンテスト。第2回の締め切りは2019年12月31日。
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