湘南PEOPLE VOL.27 飛田和緒さん

テレビや書籍など、さまざまなメディアでご活躍される料理家の飛田和緒さん。

飛田さんの手から生みだされるお料理は、どれも旬の素材の魅力を余すところなく生かしつつ、家庭で作ることができ、どこかホッとするものばかりです。

12年前、旦那さまと当時生まれたばかりの娘さんとの3人で、都内から葉山へと住まいを移された飛田さんご一家。新鮮な野菜や魚介類がすぐに手に入る自然豊かな環境と、そこに住まう人々との心温まる交流…。お金では買うことのできない、本当の意味での豊かな暮らしを手に入れられたそうです。「丁寧な暮らし」という言葉がしっくりくる、穏やかな時間の流れるご自宅にお邪魔し、食を中心とした日々のあれこれについてお話を伺いました。

海の見える家を探して

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葉山に移住されるまでは都内にお住まいだったそうですが、なぜ葉山に移住しようと思われたのですか?

「移住したいと最初に言い出したのは私で、あるときライフスタイルを変えたいと思ったのです。20代後半から少しずつ料理の仕事をさせていただくようになったのですが、ありがたいことに30代半ば頃から(仕事が)かなり忙しくなりまして…。あまりにも忙しくて自分じゃなくなる気がしたと言いますか、一息つきたいと思ったのです。学生時代から長く都内に暮らし、たくさん遊びましたし(笑)、いろいろとやりたいこともできたので、満足したというのもありますね。

その頃からでしょうか。海が見える家に住みたいと思いはじめ、不動産屋さんに相談したんです。とは言え、夫も私も都内での仕事がありますし、夫は海外出張も多いので、都内への移動がスムーズで海が見える家というリクエストをしたんです。その条件をもとに、不動産屋さんから勧められたのがこのエリアでした」。
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良い物件に巡りあうことが難しいこのエリアですが、途中、葉山内でお引っ越しされているそうですね。

「はい。はじめの家はちょうど娘を出産した日に、不動産屋さんから『いい物件が出ました』と連絡がありまして(笑)。この辺りの物件は非常に少ないですし人気ですから、早めに手続きした方が良いと言われましたが、なにせ出産した当日ですからね。一度はお断りしたんです。ところが数ヶ月後、いろいろなご縁が重なり奇跡的に住めることになりました。それから数年後、同じエリアに住むお友だちが引っ越しをするということで、今のこの家を譲り受けたのです」。
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移住して、心境の変化などありましたか?

「都内にいた頃は、常に人に囲まれていて、人の目がある…。ですから、葉山に来てまず感じたのは開放感です。人があまりいないじゃないですか(笑)静かですし、みんながのんびりしていますよね。だから私も一緒になってのんびりできるんです。移住の話には渋々だった夫も、いざ住んでみるとそれなりに楽しんでいるようだったので安心しました。都内へ通うのは少し大変になりましたが、当時は娘も生まれたばかりでしたし、すべてが新しい出発のようでしたね」。
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子どもの存在が、地域に溶け込むきっかけに

葉山での暮らしや子育てなどは、飛田さんのお料理に少なからず影響があったかと思いますが、具体的にはどんな風に変化しましたか?

「よく、葉山に引っ越した理由は新鮮な食材があるからですか?といった質問をされるのですが、そんなことは全然なくて(笑)実際こちらに住むまで、どこに何があるか知らなかったんです。ですから、当時乳飲み子だった娘をおんぶしたり抱っこしたりしながら、地元の直売所や魚屋さん、養鶏所など、食材を探し求めてあちこち回りました。でもそれがすごく楽しくて。

赤ちゃんと一緒だから会話も弾みますし、皆さんすごく親切なんです。子どもの存在があったからこそつながりができましたし、知り得た情報もたくさんあります。

私の場合、事前にあれこれと考えたりせず、目の前の食材を見て(どうアレンジするか)アイデアが湧くタイプなので、新鮮な食材がすぐに手に入るこの環境はとても有り難いのです。さらにここでは思う存分、干し野菜を作ることができます。太陽の光をたっぷりと浴びた干し野菜はとっても美味しいのです。旬の野菜や果物を大量に干して保存食をつくったり、アレンジしたり…。都会ではなかなかできませんからね」。
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飛田さんのレシピと言えば、常備菜や保存食が人気ですが、最近お気に入りの食材や食べ方などがあれば教えていただけますか?

「この季節(取材時:3月初旬)は、小カブやパクチーが美味しいですよね。
パクチーサラダは娘も好きなので、よく母娘でいただいています。残念ながら夫は苦手なので『それはちょっと遠慮したい』と言って食べませんが(笑)

干し野菜というのは非常に美味しくて便利ですので、年末には大根を大量に干して自家製切り干し大根をつくりますし、ミニトマトを干したドライトマトもよく作ります。ドライトマトはそのままいただくか、オリーブオイル漬けにしたものをサラダに合えたり、スープに入れたりします。トマトは煮込みにパッと加えるとコクがでるのです」。
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ご自宅の冷蔵庫のなかには、常時数種類の常備菜が
日々作られるお料理はどんなものが多いですか?また、食材はどんなところで調達されていますか?

「我が家の食卓は和食というか、きんぴらや根菜の胡麻和えなど、野菜メインの家庭料理が中心です。とは言え、娘は食べ盛りですし、夫も揚げ物などが好きですから、お肉料理も作ります。お客さまがいらっしゃる場合には、イタリアンなど洋風の料理も作りますが、基本的にはお箸で食べられるものばかりです。

食材に関しては、野菜などは近所の直売所で手に入れますし、魚も近所の魚屋さんで購入します。お肉は地元のスーパーのお肉屋さんがお気に入りですが、都内からお客さまがいらっしゃる時には、葉山牛など地元の食材をお出しすると喜んでいただけるので、横須賀の方まで買いに出掛けます」。
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良いものを、長く大切に使う


キッチンに整然と並べられたまな板、シンプルで使い勝手のよさそうな調理道具、リビングの棚に並ぶ美しい器やカゴなど、どれもため息が出るほど素敵です。調理道具や器など、飛田さん流のこだわりを教えてください。


「基本的には、良いものを長く使うようにしています。最近新しくしたものですと、包丁でしょうか。鎌倉の『菊一伊助商店』さんで、メンテナンスも含めてお願いしています。これは食材に関しても同じですが、できるだけ作り手の顔の見えるようなものを手に入れるようにしています。

保存容器もガラスかホーローを利用しますので、あまりプラスチック製品はありません。調理道具や器などは、かれこれ20年くらいお付き合いのある、松本(長野県)の『陶片木』さん、『ギャラリー灰月』さん、長野市内の『ギャラリー夏至』さんなど、道具と器のお店で購入することが多いです。他にもお気に入りの作家さんの個展や旅先などで見つけることもありますね」。
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この春にも3冊続けて、新しいご著書を出版されるそうですが、お仕事プライベート含めて、飛田さんのこれからの生活はどんなイメージですか?

「葉山に越してからも、かなりのウエイトを仕事が占めていたので、これからはもう少し減らしていきたいと思っています。空いた時間は習い事をしたり、ゆっくりと過ごしたいなあ、と。

実は、3年前にお菓子づくりを習いはじめたんです。それまで私は、料理やお菓子などを教わる教室に通ったことがなかったので、習うこと自体がすごく楽しくて。お菓子づくりから、家庭料理につながるプロセスも学べましたし、何より人に習うってすごく良いなと思ったのです。ですから、また何か習いたいなと」。
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葉山で暮らしはじめた頃は赤ちゃんだった娘さんも、春からは中学生。旦那さまはお仕事が忙しいため、休日には母娘で映画を観たり、ショッピングを楽しんだりするのだそう。離乳食の頃から家庭料理のプロの手料理で育った娘さんは、飛田さんが特に教えなくとも、簡単な料理ならばパパッと作ってしまうのだとか。

“食は人生のエネルギー源です”と言ったのは、スローフード運動創始者のカルロ・ペトリーニさんですが、まさに食卓は家族のエネルギーの源。飛田さんの生み出す料理のすべてに愛が感じられるのは、食べさせたい大切な人たちがいること、そしてその先に笑顔が待っているからなのかもしれません。




撮影 / 齊藤有美
取材・文 / 富岡麻美
[飛田和緒さん]
新著
くりかえし料理』(天然生活ブックス)
海辺暮らし季節のごはんとおかず』(女子栄養大学出版部)

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◎ブログ あしたの生活『飛田和緒さんの野菜とのつきあい方
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