湘南PEOPLE VOL.7岡崎裕子さん

都会ではないけど都会的センスはある。湘南の暮らしと器にこだわりたい

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん
30歳で芦名に自宅兼アトリエを構え、各地で個展を開催しながら自らの作陶に打ち込む、陶芸家・岡崎裕子さん。その活動は全国にファンを育てつつあり、その真摯な生き方は先月23日の『ソロモン流』(テレビ東京系)でも取り上げられ、多くの反響を集めました。
彼女が愛する立石公園で、器への熱い思いとこれからについて、お話をうかがいました。晴れ渡った、小春日和の一日でした。
― ご著書の『器、手から手へ』(主婦と生活社)は、ご自宅での暮らしぶりもうかがえて、楽しく拝読させていただきました。岡崎さんの湘南とのかかわりはどんなふうに始まったのですか。

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん - 湘南とのかかわり岡崎 私が4年前に引っ越してきた芦名にある今の家は、もともと曽祖父母のものだったんです。夏場の別宅として使っていたようで、祖父母もそんなふうに使っていました。ですから、私にとっては幼少期に祖父母と過ごした思い出のある場所なんです。陶芸家として独立する場所を探していたとき、両親が「この場所を使ったら」と提案してくれたんです。陶芸に向いた環境かというと風土的にはむずかしさもあるのですが、窯をかまえるには東京都内よりも制約が少ない。代々大切にしてきた場所で窯をもつことができるのは精神衛生上もいいと思い、両親の提案をありがたく受け入れたんです。

― 芦名は葉山に程近い素敵な場所ですが、実際、湘南といわれるこの場所で創作活動をされてみていかがですか。

岡崎 陶芸の修行時代、茨城に5年間住んでいたんですね。その前は生まれも育ちも東京です。都会の利便性とか付き合いの多さとか、私はそんなに全部は必要じゃなかったのかもしれません。湘南は茨城ほど地方ではないし、東京ほど都会じゃない。でも都会的な感覚をもった方々はたくさんいらっしゃる。情報もあります。だから、私にとってはとても向いている場所なんじゃないかなと思っています。
― ここに住まわれると同時に結婚もなさったんですよね。

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん - 歩いていても本当に気持ちがいい岡崎 そうなんです。私たち夫婦にとって、向いている、といったほうがいいですね。立石公園、一色海岸、小磯の浜、葉山公園。歩いていても本当に気持ちがいいし、適度ににぎわっていて。
都会のように外の娯楽が少ない分、暮らしに集中できます。家の居心地のよさというものをとことん追求できるというか。
何よりもよかったと思うのは、地元の友人たちに恵まれたことです。楽しい友達が本当に多い。飲んだり食べたりできる仲間がいて、夫婦でも互いの家を行き来したりできるというのは本当に楽しいですね。

― 湘南は本当にホームパーティを楽しむ人たちがたくさんいるし、皆さん、センスがいいですね。そこから作品につながっていくものもあるのですか。

岡崎 そうですね。そういった暮らしのなかで、ホームパーティにならこういう器が必要、大きさはこれくらい、という感じでつくっていくということはありますね。
― では春にご出産とのことですから、またいろんな器が生まれていきますね。

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん - 家族が増えること岡崎 家族が増えることでそれに合うサイズというもの、形というものが生まれていきそうです。家族3人で使うなら、と考えるのは楽しいですね。
私の器はモチーフがやや奇抜なので、サイズに関しては実用性を第一に考えています。生活のなかで実際に使ってみて「こういうサイズがあるといいな」と思った大きさなんです。
ただ前回、12月に小山登美夫ギャラリーでやらせていただいた個展では、現代アートやオブジェを多く紹介されている場所でもあり、今までとは違う作風のものも作りました。花の柄の大皿などがそうです。

― 『ソロモン流』でもあの花の柄が出るまでの工程でのご苦労が見受けられましたね。

岡崎 花のシリーズは悲しい思い出が発端になって生まれました。祖父母が大事に使っていて譲り受けた染付けの取り皿を私が誤って割ってしまったのです。そのときのピースはすべてとってあり、それらを眺めながら、なんとかしてこの器を生かせないかと思って考えたのが、花の器なのです。
― 一番長くつくられているのはとんぼの柄ですね。

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん - トンボの美しさ

岡崎 初窯で焼いたのがとんぼの柄でした。アールヌーボーのガレやドームといったガラスの器の立体的な造形美、ルーシー・リーの白い器のほっこりした風合い…それから、修行時代に茨城で見た羽黒トンボの美しさ。あらゆるものもがここに込められています。私の代表作であり、自然とのふれあいが形になった最初の作品といえるかもしれません。
ひとつずつとんぼをつくって貼りつけて焼くんですよ。

― 生きていること、暮らしのなかの出来事が、すべて器に反映されていくんですね。素敵なことだと思います。

岡崎 ひとつずつ丁寧に過ごしながら、器をつくることにはひたすらこだわり続けていきたいと思っています。自分が生きていく環境に合ったもの、そして自然というものがくれるモチーフを大切にしていきたいですね。

湘南と私

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん - 湘南と私波紋のブルーの器は海を意識してできた作品。「ブルーの色が出てきた時点で、海をイメージしました。このぐにゃぐにゃしているのはモロッコの海沿いを走ったときに見た、大西洋の猛々しい海。もうひとつ、同じブルーで湘南の穏やかな海を描いた水紋のシリーズもあります。私のなかに蓄積されたひとつひとつの映像や思いが、手を通して作品になる瞬間を体験した、記念すべき器なのです」。

岡崎裕子さんの本

湘南PEOPLE - VOL.7 岡崎裕子さん - 『器、手から手へ』主婦と生活社『器、手から手へ』主婦と生活社 1500円(税別)

「器をどう使ったらいいかわからない」という人も多いのは事実。でもこの本には、和洋を問わず、器と暮らしを一体化させるアイデアが一杯詰まっています。陶芸家を目指したまっすぐな思いと行動力、これからの陶芸への思いもしんしん伝わってきます。岡崎さんから手渡しされたような気持ちになる、愛情のこもった一冊です。

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