湘南PEOPLE VOL.43 渋木さやかさん

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「こんにちは」と声を掛けると、まるで昔からの友達のように親しみを込めた笑顔で返してくれる。渋木さやかさんと初めて会ったときに、そんな垣根のないおおらかさに心惹かれることでしょう。ヨガ講師として全国で活躍し、ときおりファッションのモデルとして起用される彼女は、個性的な美しさに加えて健やかな魂が放つオーラのようなものが感じられます。それは近寄り難いという言葉とは正反対の大人も子供も男性も女性も、誰もがふと愛着を感じ近づきたくなるような魅力。さやかさんのヨガクラスでは、参加者たちがどんなにリラックスしていい時間を過ごしているのかが想像できる気がします。鎌倉、材木座海岸のすぐそばで、ご主人と3歳の息子さんと暮らしている自宅を訪ね、ヨガのあるライフスタイルについてお話を聞きました。

 東京で生まれ、中学生までは池袋で育ち、その後群馬へ。思春期を過ごしたその土地を故郷と言うさやかさんは、大学で上京し、卒業後はアパレルのPRとして働いていました。けれど数年後には都会に疲れ、地元に戻って自らジュエリーブランドを立ち上げ新たなキャリアをスタートします。そんな中、30歳の手前で「このままでいいのだろうか?」という大きな疑問が湧き上がったそうです。恋愛、結婚、仕事など、人生の課題が頭の中で巡り、ある意味八方塞がりに近い状態。一度すべてを俯瞰するためにとった行動が今に繋がるきっかけとなります。それは、「言い訳をつけてやらなかったことを紙に書き出す」ということでした。

30代までに、やりたかったことをやると決意

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 「その中にサーフィンやヨガも入っていて、30代までに全部やってみよう」と思い立ったそうです。早速、近くのスポーツクラブでヨガのクラスに参加。それが運命の始まりでした。「その日のヨガで衝撃を受けました。悩みがあったはずなのに、クラスが終わる頃には“まぁ、いっか〜”と思えていたんです」。言葉をそのまま文字にすると、ちょっとしたことのように受け取れるかもしれませんが、当時のさやかさんを思うとそれは稲妻のようなショックだったのでしょう。

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 もともと繊細で心が揺れやすく、恋愛に行き詰っていた当時は人生への不安が募り、夜眠る時に「このまま一生目が覚めなかったらどうしよう!」と怯えていたのだと言います。そんな時期のことですから、一時的とはいえふっと楽になることがどれだけ助けになったか。「自分の固執した考えが解き放たれて、周りを客観的に見ることができるようになって、なんなのだろうこれは?」とヨガにぐっと引き込まれます。

ヨガの源流に興味が湧き、インドへと

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 2006年当時、ヨガのクラスも今ほど多くはなく、知りたい、学びたいという気持ちを満たしてくれる先は、ヨガ講師養成講座でした。出会ってすぐにヨガ道を歩き出すことになったさやかさん。最初はパワーヨガの講師の資格を取るところから始まりましたが、知れば知るほどヨガの源流に興味が湧き、タイでのトレーニングコース、インドでの上級コースと修行を重ね、正統派であるシヴァーナンダヨガの知識と技術を深めていきます。インドでは尊敬する師と出会い、その後は毎年1ヶ月弱の滞在をし勉強を続けました。

 ヨガから授かったのは、恋愛や仕事、人間関係すべてに通じる生き方の指針。20代の後半に直面した挫折感は、子供の頃からの「努力すれば叶う」と信じていたことが崩れたのが原因でした。恋愛に関しては、「お相手のあることは努力してもダメなことがある。どんなに好きでも結婚したくてもできなかったり」。けれどヨガを通して「人は変わらないけれど、自分の物の見方や人への接し方が変わるだけで世界が変わる。それしかないと思っていたことが、方向転換したり、ほかにも楽しいことを見つけられたりすることができる」ということに気づいたそうです。

ヨガに出会い、生きやすくなりました

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「自分自身がヨガに出会い助けられたので、ヨガの哲学や精神的な教えで、人生に深みが出たり、生きやすくなったりするということをお伝えできれば」と話すさやかさん。「何千年前からの先人の智慧を自分の知識で咀嚼してお伝えすることで、リアルライフに活かせるように」と努めています。天気や体のサイクルによっても気分の浮き沈みがある。落ち込んだり、悲しんだり、怒ったり、ネガティブな感情は一時的なもの。軸がぶれずにニュートラルに戻ってこられるための心と身体の筋トレを、ヨガでやっているのだと。

 「ヨガを始める前は人に頼って引き上げてもらっていた部分もあったけれど、今はニュートラルに戻るのが上手になりました」と、繊細さは変わらないけれど生きやすくなった自分を遠慮がちに褒めるように語ります。考えすぎて神経過敏になる時期は女性の多くが通るものだということも理解できるので、「大丈夫だよ〜」と言いたい。ボディエクササイズとしてだけではなく、ヨガの哲学と絡めて心に響くものとして、悩み事があったらその解決のきっかけとなるヨガを。そんな気持ちのもとに「ヨガライフアドバイザー」と自らを称します。

女性のライフステージに寄り添うヨガを

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 鎌倉に住んで4年。出産後6ヶ月で引っ越して来た頃は、知り合いのいない土地で寂しい思いもありました。けれど近所での交友関係が広がると同時に楽しさも増し、子供の成長とともにヨガ講師としての仕事も復活しました。最近は赤ちゃん連れで参加できるクラスもありますが、あえて「お母さんの時間を大切にするクラス」にしています。四六時中、子供が中心のお母さんにとって自分の時間をもつことは人生にとって欠かせない、という思いはさやかさん自身が感じたことだから。「婚活の苦しさもわかりますし、恋愛がうまくいかないときがあることも」。だから女性のさまざまなライフステージに合わせたヨガを提案していきたいと。

 人は人生のさまざまなタイミングで、行く道のガイドライトとなる出来事に出会います。「何」という答えを見せてくれるのではなくて、「あっちの方向だよ」と照らしてくれる光。キラッと光って、「なんだろう?」と思わずそちらに向かってしまうこともあります。それは道に迷っている途中に起こるかもしれないし、どこへ行こうかと地図を開いているときかもしれません。

 さやかさんにとってヨガというものは、まさにそういうものだったのでしょう。きっと同じような気持ちの女性がいるはず。基本は自分をきちんと見つめることにある。ヨガがそんな女性たちのガイドライトとなるように、その心に寄り添いながら自らの経験をシェアしているのです。さやかさんが発信するSNSに共鳴する女性たちの数は1万を優に超えています。それでもまだ自らも修行中だと話す様子に、真髄を知っているからこその謙虚さとそこはかとない自信が感じられます。ヨガという道の入り口を覗かせてもらったような気がします。

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interview & text : sae yamane
photo : yumi saito
coordination : yukie mori 

渋木さやか

ヨガ講師 / ヨガライフアドバイザー™
現代女性の心に寄り添うヨガを2006年よりスタート。インドの伝統的な古典スタイルのシヴァーナンダヨガの講師。ヨガやファッション雑誌、CM、ラジオなどメディアに多数出演するほか、メイン講師として全国の大型イベントのステージに数多く登壇。笑顔とユーモアを兼ね備えた人気ヨガ講師。
UnderTheLightヨガスクールで指導者養成コースにも携わり、アーサナだけではない深みのあるヨガインストラクターの普及にも力を注いでいる。また、ヨガライフアドバイザーとしてヨガの知恵を生かした「恋愛と人間関係」のアドバイスをコラムで多数連載。自身のInstagramでも発信中。2016年に出産後、鎌倉で海のある子育てライフスタイルがさらに注目を集め、ファッションアイコンとしても活躍は多岐にわたる。
instagram@yoga_citta
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