湘南PEOPLE Vol.33 神田恵実さん

自らのオーガニックライフから得た経験や知識をもとに、女性にとっての健やかな美しさとライフスタイルを提案。オーガニックブランド「nanadecor」のディレクターとして活躍する神田恵実さんは、表参道にオフィス兼ショップを構えながらも、ご主人と3歳になるお嬢さんと葉山で暮らしています。今年4月には新書『ゆるめる自分』を発表したばかりの神田さんに、充実した人生の出来事とその背景にある考えをお話ししてもらいました。

「ロハス」な暮らしを提案しはじめたひとりとして

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十数年前、神田さんは表参道のアンティークマンションにオフィスを構え、編集ライターとしてファッション誌やブランドのカタログなどを手掛ける傍らで、そのオフィスをフリーで活動する女性たちのシェアオフィスとして開いていました。志を同じくする元気のいい女性たちがそこを基地に日々出入りし、互いの活動を横目で見ながら、情報をシェアしたり、人と繋いだりという、爽快な場がそこにはありました。

 当時30代の初めだった神田さんは、多岐に渡る仕事を器用にこなし、フェミニンな面持ちの一方で、どこか肝が座っていて、まさに「仕事のできる女」という感じでした。はじめたばかりだったオーガニックブランド「nanadecor」もめきめきと評判が上がり、オフィスの傍にはオーガニックのナイトウエアやアイマスク、タオルなどの商品が所狭しと積まれていました。

ものごとを俯瞰で見る目をもち、まるで「父」のように頼り甲斐があって、「母」のように心を配る。神田さんの人柄を語るならそんな感じかもしれません。そんな彼女のもとには、自然と人が集まり、いい流れが生まれていくのです。

 ときは「ロハス」ブームのはじまり、その火付け役のひとりとなった彼女は、その後、オフィスを原宿の一軒家に移し「nanadecor」を中心に心と体にやさしいアイテムをセレクトしたショップをスタートします。そこにはオーガニックやマクロビオティックをテーマにしたカフェも併設。神田さんは、いよいよ彼女自身の内にあったライフスタイルのテーマを体現する発信基地を築きました。

仕事で独立し10数年の時を経て、結婚、そして女の子を授かり40代となった今、よりたおやかに、力強く活動する彼女がいます。

オーガニックコットンとの出会いが、導いてくれたこと

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 神田さんが「オーガニック」を意識するようになったのは、編集者として超多忙だった時期に、取材先で触れたオーガニックコットンに癒されたのがきっかけだったそうです。その入り口からぐっと奥へと入っていくのが彼女ならでは。オーガニックについての知識が少しずつ深まり、実際に生活に取り入れていくうちに、明らかに体の変化を感じはじめました。当時、そんな忙しさの中でも、ヨガやサーフィンをやったり、マクロビオティックも勉強し始めていたことで、その効果をキャッチする素地は養われていたのかもしれません。そのさまざまなエッセンスがそこで繋がり、矢印となって彼女を導き始めました。

 「マクロビオティックでは、少しの塩を加えることで野菜本来の美味しさが引き出される。サーフィンでは、海に入ることで身体のうちにあった疲れが浄化されて元気になります」。それはヨガでももちろん実感してきたこと。「人間本来の健康や治癒力が高まることで、内面にある輝きが引き出される。そのためには外から重ねるのではなくてマイナスしたり、デトックスすることいちばん大切なのではないだろうかと思いました」と言う神田さん。そして「日々の疲れをきちんとリセットするための睡眠」に、その鍵があると思い至ります。さらに「オーガニックコットンで作ったネグリジェを着ることでよく眠れて元気になるが実感できました」と、オーガニックコットンのナイトウエアの必然性が循環するように証明されたのです。

 オーガニックコットンを追究していくことで、彼女の前には新たな活動の扉を開かれました。オーガニックに携わりソーシャルビジネスとして展開することで、たとえば農薬問題や生産地での児童労働など、コットン産業の抱えるさまざまな社会問題にアプローチをしています。「今やっていることは、ライフワークでもあるのですが、自分が働いたアクションが何かにつながる充実感があります」。社会の役に立てることをスタッフと共に探っているプロセス、また、オーガニックに関わるということで、世界中の同じ意識をもった人々とつながることができることにやりがいを感じていると言います。「そういった人たちとは、わたしたちの考えるべき責任、次世代に何を残すのか、ものの価値を見極めて消費活動を考えていくといった概念でつながっています。わたしはネグリジェという形ですが、オーガニックに関わる仕事の一端にいられるということが、生きる指針としてありがたいと思っています」。

葉山での暮らしで、新たなバランスの取り方を知る

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 駆け抜けるような日々に、変化の一石を投じてくれたのがご主人との出会いであり、お嬢さんの誕生です。10年前にサーフィンをするご主人が住んでいた鵠沼に移り住み、さらにより静かで自然豊かな葉山へと引っ越していきます。一緒に仕事をしていたこともあり都内へは車での通勤でしたが、仕事が忙しさのピークともなると葉山に戻るのは難しい日も続き、一時は都内にベースを移したこともありました。それでも週末は葉山に戻りリセットをしていたそうです。

そして子供が成長し、彼女が見たり触れたりするものを考えたときに、いよいよ暮らしのベースを葉山にしようと決めました。葉山に戻ってきた改めて気づいたのは、「静けさが必要だった」ということ。「都内にいるとつい夜中までメールをしたりして働いていましたが、こちらでは9時半か10時には寝て、しっかり睡眠をとることで好循環が生まれました」。都内は雑音も多く、夜に出かけなくてはという用事もあります。「変えたいと思っていたのに手放せなかったものかもしれません。自然に『ねばならない』が緩んだ気がします」。

忙しさは前とは質が変わりつつあるといっても、仕事の量は同じ、けれど効率よくできるようになったと言います。「葉山では自分の都合で生活のバランスを選べるんですよね」。
 仕事をこなし楽しみながらも、海と山が身近にある環境の中で子供を育てる神田さんは、「子供が生まれて生活のリズムが整い、より楽しみが増えました」と言います。もともと探究心が強く、勉強好きの彼女にとって、新たに「子供や教育」というテーマが加わり、世界の教育のことまで興味が広がっているそうです。新しいこと、いいものを人に伝えたいという元来の「編集者魂」が頭角を現し、「nanadecor」では、衣食住に関しての教室や講演を主催して、多くの女性たちにとって知識として、また励みとして役立つような情報を提供しています。そのテーマは「女性」から母、子へと、発信する内容も枝が広がってきているようです。

自分を大切にして、静かな時間をもつことから

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オーガニックコットンのウエアを通して女性たちと交流し、その声を聞けることが嬉しいと語る神田さん、「これからの時代、女性は自分らしい仕事をしながら社会とつながりともったり、誰かの役にたつことによって満たされたり、生きがいを見出したりするのだと思います。好きなものや自分らしさを見つけている人のほうが、活躍できる時代になるのではないでしょうか」と。でも実際に自分らしさを見つけるのは案外むずかしいものです。

そこで「どうやって見つけたらいいのでしょう?」という質問を投げると、「まずは自分らしい時間とはいつでしょう? 家でホッとくつろぐ時間がいちばん自分らしいのでは? そんなときに何を選ぶか。私は自分を心地よいナイトウエアを着て、ゆっくり過ごすことから始まりました。落ち着いた、静かな時間をもつことで、本来のやりたいことや、自分の性格、ペースなど見えてくるものもあるのでは、と思います」。自分を大事にする時間に何を着るかが大切、その視点も踏まえて神田さんはオーガニックウエアを作り続けているでしょう。今を「すごく幸せです」と淡々とした口調で語りながらも、その目線はずっと先を見ています。

 好きなものを追求する。コツコツと続ける、それを10年以上続けてきて体現しているのが神田さん自身です。結果としてどれだけの大きさになるか、ということ以前に自分の中でどれだけ満足するかが大切。自身の内にある美しさを輝かすことができるのは、自分自身しかありません。日々の忙しさの中で溜まった濁りをデトックスして、本来の自分を取り戻した時、心と体が健やかであれば、きっと「綺麗」は引き出される。多忙のなか自分を見失いがちな女性というのは、以前の彼女自身であり、そこから抜け出してしあわせな時間を実感している自分が通ってきた道、信じていることを、すべての女性に向けて生かしてもらえたらという気持ちで、メッセージを送り続けています。神田さんのお話を聞くことで、安心と元気をもらったような気がしました。

interview & text : sae yamane
photo : yosuke hayashi
coordination : yukie mori

撮影協力: c:hord
神田恵実 かんだ えみ
nanadecor director, Juliette主宰

ファッションエディターとして、女性誌をはじめ書籍の編集を担当。2005年にはオーガニックライフの素晴らしさと必要性を伝えたいと「nanadecor」をスタートし、衣食住を中心にオーガニックライフを提案。2013年より表参道の路地裏の一軒家でカフェとショップを併設したオフィス「salon de nanadecor」を構える。著書に、ライフスタイルを綴った書籍『My Organic Note』、新刊『ゆるめる自分』。
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