人の身体に寄り添いながらも、静かに響く料理を

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「YUSAN」という屋号で、国内外を舞台に「食活動」をする牧野加奈子さん、海平貴史さんご夫婦。おおらかな大地のように落ち着いた雰囲気の加奈子さんと、風のように自由で柔軟な海平さん。正反対の二人がパートナーとなり、様々な人に出会い食を通じて生まれた物語です。

高知に生まれ、フランスに住んだ経験もある牧野加奈子さん。鎌倉でのお仕事がきっかけで秋谷に移り住むことに。そんな加奈子さんは、飲食店という場が好きで料理の道に入ったと言います。懐石料理や野菜料理などを学び、海平さんと共に「YUSAN」を立ち上げました。


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一方、東京でカメラマンをしていたという海平さん。当時は、2週間スタジオにこもり撮影を続け、2週間自由な時間を過ごすというスタイルで仕事をしていたのだそう。横須賀という土地が気に入り、風の吹くままに引っ越してきた海平さんは、加奈子さんに出会い、食という表現に強烈に惹きつけられました。「YUSAN」ではサービス、大工仕事、プロジェクトのマネージメントなどを担当しています。

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物語のようなはじまり

物件巡りが趣味だという海平さんが、ある時、加奈子さんと共に、大正時代からの秋谷の蔵を訪れました。偶然出合ったその物件を一目で気に入ったふたりは、ここにお店を開こうと決めたと言います。それが日本料理店 「YUSAN」 誕生のきっかけです。

後に「YUSAN」となる蔵の持ち主もまた、とてもユニークな方なのだとか。建築家のご主人とアート関係のお仕事をされている奥様で、当時、奥様が、5月5日を子供だけでなく大人も楽しめるシャボン玉の日にしたいと計画を練っていたのだそう。同じ頃、マイルス・デービスに傾倒しトランペットを練習していた海平さんが、そこでシャボン玉を吹いたところ、今まで一番試した人の中で一番大きなシャボン玉だと喜び、それならば「ふたりに貸しましょう」という流れになった、という笑い話も。

お店を開こうと決意してから、ふたりは資金集めに奔走し、2か月後、無事にお店をオープンする運びに。お店の名前は「遊山(ゆさん)」。「遊山」とは、その昔、野良仕事が一段落した頃、骨休みに花見などを兼ねて野外で食事や酒宴をしたという、四国の古い風習のこと。そこから5年、たくさんのお客様との出会いがあり、数々の物語が生まれたそうです。

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「YUSAN」の日本料理は、二十四節気の野菜を存分に味わえる内容。二十四節気とは、太陽暦を使用していた時代に一年を二十四等分し、その区切りに付けられた名称で、現在でも季節の節目を示す言葉として使われていて、冬至、立春、夏至、秋分など現代でも日常的に私たちの生活の中に存在する暦です。この二十四節気のそれぞれの時期の太陽の動きを知り、その時期の食感、香りなど五感を使って食で遊び、日本の自然を身体で感じるようなお料理を月2回内容を変えて提案してました。

新しい扉

2017年、お店は一旦クローズし新たな活動の形態へと。まずは昨年の夏、ふたりはとある縁から、フランスのバスク地方の日本食レストランの厨房を手伝いました。多様な人種の人たちが働いていたそのレストランは、これまでふたりが経験したことのないルールや方法で、お店が運営されていて刺激的だったのだそう。

例えばフランスでは、食材を入れておくタッパーやユニフォームの色にも規定がある。なぜなら、移民の多いこの国では衛生面を保つ上では、これ位の厳しいルールが必要だから。紐解くとすごく合理的な訳があるのです。

またスタッフ間のコミュニケーションもオープンでダイレクト。何か意見を伝えると、彼らはそれを受け入れつつ、必ず自分の思ったこともストレートに伝えます。違いを受け入れながらも、自分の意見もはっきりと表現することに、当初は少し戸惑いを感じたふたりですが、時間が経つにつれ仲良くなり、素晴らしい体験となったと言います。

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そのレストランでの手伝いを経て9月以降は、パリ11区の私邸サロンや、アムステルダムのインテリアショップで「YUSAN」による食のイベントを開催。どちらも現地の食材を使っての日本食という試みで、非常に苦労した反面、健康食への意識の高まりはどの土地においても高く、多様な食材や調味料の品揃えには国境などの縦割りを超えた、主義・趣向において暮らす層の存在を感じたと言います。

ただ食材は同じ茄子でも味も皮の厚みも水分量も、全てが異なりますし、さらに難しいのは水の違い。それにより出汁のとれ方にぐっと差が出て、”いつもの味”を出すことがとても大変だったそうです。

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食に込めるピュアな想い

ヨーロッパから帰国し、現在はケータリング中心に活動しているふたり。結婚式から企業のパーティー、出産のお祝い、お食い初めなど、様々な節目に出向かい、食でお祝いを表現しています。

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「お店を持っている頃は待つ姿勢で、今は攻めの姿勢」という海平さん。「以前よりも様々な求めや場面の「食体験」に立ち会えることで、ご用意する我々にもすごく大きな手触りとして残っていく」とも。

今後の「攻め」の YUSANにも大いに期待したいところ。

日本でもフランスでも、国にとらわれず、ふたりのピュアな想いは食を通じて世界へ広がり、どこまでも「YUSAN」の物語は続いていくことでしょう。

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photo : yumi saito
text : yukie mori (BRISA)
YUSAN

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