湘南の酒造りに心を注ぐ、蔵元のおもてなし(1/2)

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熊澤酒造の敷地に入るとまずはレトロな雰囲気が素敵なビール工場を目にします
湘南に住んでいる人なら、誰もがきっとその名前くらいは知っているだろう、熊澤酒造。明治5年創業の老舗蔵元であり、現在は湘南地区に残された唯一の蔵元として湘南の酒造りを行いながら、湘南の“食”カルチャーをリードする存在でもあります。湘南の地ビール「湘南ビール」を作っている会社と言えば、ああと頷く人も多いかもしれません。
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茅ケ崎の山側、香川にある熊澤酒造の敷地には、酒蔵とビール工場の他、和食の「蔵元料理 天青」、イタリアンの「MOKICHI TRATTORIA」、ベーカリーショップの「MOKICHI BAKER & SWEETS」、そして2年半前にオープンしたギャラリー「okeba」が併設されています。酒造所のある敷地自体が、ちょっとした寛ぎのスペースとなって、一般公開されていると説明するとわかりやすいかもしれません。エントランスには“敷地内のお店は見学だけも結構です。ご自由にご覧下さい”と書かれているので、気兼ねなくお邪魔することに。グリーンが絡まるアーチをくぐって敷地に一歩足を踏み入れると、そこには緑が生い茂る素敵なガーデンが広がっていました。敷地内の建物は全て木造で、庭先で枝を伸ばす木々の緑との調和が心地よく、訪れた人はまるでヨーロッパの片田舎にある別荘か、森の避暑地に迷いこんでしまったかのような印象を受けます。
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熊澤のお酒をより美味しく飲んでもらうため、熊澤のお酒の美味しさを知ってもらうためには、美味しい食事と一緒にいただくのが一番、ということでスタートしたレストラン。湘南という土地柄、新鮮な魚介類はもちろん、畑で獲れた野菜や、茅ケ崎の養豚場で育てられた豚などを素材とした料理がいただけます。“地産地消”を目指したわけではなく、茅ケ崎という土地で、熊澤のお酒を楽しんでもらうことを考えたら、自然とそうなったと話すのは6代目茂吉さん。

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okeba
「今でこそ、うち一軒だけになってしまいましたが、昔はこの辺りにも沢山の蔵元があって、みなそれぞれに自分のところのお酒を造っていたんですよ。電車もバスもない時代、歩いて行ける距離には必ず蔵元があったんです。地域の人々は、お酒を買いに徳利を持ってそこに行き、お酒を注いでもらうわけです。帰る前についつい飲みだすともう一杯ということになるので、蔵元の方ではつまみを出したりしてもてなすわけです。酔いつぶれないよう、頃合いを見計らって最後には熱いお茶を淹れて出すので、昔はお茶葉も自分のところで造っていたと聞いています」
 戦前の日本にあった蔵元を取り巻く風景は、今、私たちがイメージする蔵元のそれとはずいぶん異なっていたようです。もともとはお酒を造る場所というだけでなく、地域の社交場としての大切な役割を担い、人々のコミュニケーションを円滑にし、また文化を生み出す場所でもあったのが蔵元なのです。
「駅ビルに入って、沢山の店舗をフランチャイズ化するというあり方ではなく、地域の活性化に繋がる形で10年後もちゃんと人が集まってくれるような場所でありたい」と、言い切る茂吉さん。その潔い言葉どおり、熊澤酒造の敷地にあるレストランは食だけでなく、空間やサービス、そして細かなおもてなしの心で、訪れた人々を寛がせてくれます。

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