湘南くらすらいふ第48回 近藤優子さんのClass Lifeな暮らし

葉山にはいくつかの山が連なり、その山を背負うようにして住宅地が広がっています。山道のハイキングコースの入り口からは深い森が待っているというのに、そのすぐ近くまで坂道の両側には住宅が立ち並びます。そのうちの一軒、60年代に建てられた平屋を改装した家の玄関の横にアイアンワークの「SUNNY & SONS」というサインがあり、ガラスの扉の向こうにはフランスの田舎のガーデンハウスのような、ボン・シックな工房が見えます。

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 出迎えてくれたのは、この場所でケーキのアトリエを営む近藤優子さん。自宅のエントランスの横に設えた作業場は、インテリアデザインのお仕事をされているご主人と一緒に作り上げたものです。一歩足を踏み入れると、住宅地の一角にあるのを忘れてしまうような空間。

 お話を聞くために通された庭は、洗練されたセンスと手作りの温もりがうまく調和した居心地のいい場所でした。優子さんは和歌山の出身。インテリアやキッチン雑貨を扱う会社への就職を機に上京してきましたが、自然の中で生まれ育った彼女いわく都内に住むのはハードルが高かったようです。逗子に住む友人を見て、都内への通勤圏内ということを知り逗子に住み始め、その後結婚をして、ご主人の住んでいたこの家に13年前から暮らしています。

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10年以上をかけて ゆっくりと育んできたもの

 アトリエが完成しもうすぐ2年が経ちます。それまで10年近く、オーダーに応えコツコツと作り続けてきた積み重ねの結果であり、発信源となる工房が出来上がり、優子さんは「ようやく仕事として成り立つようになりました」と言います。ケーキとデコレーションのアトリエ「SUNNY & SONS」は、旬を大切に厳選された素材を使った、安心して気持ちよくいただくことのできるお菓子をコンセプトに作られています。

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優子さんがケーキ作りをはじめたきっかけを聞いてみました。

「当時、仕事を辞めてちょうど妊娠していた時期で、もともと食べるのが好きだったこともあって、何でも手作りしていたました。ケチャップやふりかけまで・・・」と相当の凝り性の様子が伝わってきます。

 そんなある日、市販のお菓子を食べて重く感じたのをきっかけに、お菓子を作り始めます。ケーキもクッキーもまったくの独学。最初は近所の友人たちとのホームパーティの持ち寄りの一品として作っていましたが、それが評判を呼び、次第にオーダーが入るように。また都内でアパレルの仕事をしていた経験もあり、お付き合いのあったスタイリストやカメラマンの方で、葉山に移り住む方も増えてきている中で、評判は広がっていったようです。

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気持ちよく作れて 気持ちよく食べられるものを

「オーダーを受けて、採算を考えずに、勉強のために作っていました」と最初の10年を振り返ります。もちろん素材にこだわるスタイルはその当初から変わりません。ただ「高い素材を使えばいいとは思っていません。いい素材を選びたいというのは、自分が気持ちよく作れて、気持ちよく食べられるものという考えです。ストイックに、たとえばヴィーガンでなくてはとは思ってません」と言います。あくまでもナチュラルな感性でのお菓子です。

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 そんな優子さんの思いが詰まった人気の商品が「クッキー缶」です。「毎月買ってくださる方もいるので、缶を開けたときに感動があるといいなぁと思って」と、毎月テーマを変えています。そして1種類は新作のクッキーが入るというアイデア。アニマル缶、トロピカル缶、フラワー缶、ソーイング缶など、聞いているだけでもワクワクします。ヴァレンタインの2月にはハートの形がいっぱい詰まった缶だったそうです。クッキーの型は優子さんが見つけたきたものやオリジナルでご主人が作ってくれたものも。お菓子を作りながらも、その向こうにいるお客様のことをいつも考えているのでしょう。

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友人の力を借りて アトリエの運営がスムーズに

 優子さんの1日は、12歳の男の子と6歳の女の子、ふたりのお子さんのタイムスケジュールが中心です。学校に送り出した後から戻ってくるまでと子供が眠った9時以降が仕事の時間にあてられます。ケーキなどの生菓子はスポンジやカスタードクリームは前夜に仕込み、朝に仕上げをして11時からの引き渡しに間に合わせます。クッキー缶は、ひとりで作っていたときは月に50缶つくるのがやっとだったのが、最近は一緒に働くスタッフが増え、全国からのオーダーにも応えられるようになりました。

 スタッフの二人は葉山の「ママ友」の主婦の方々、そしてもう二人は募集で出会った近くのエリアに住む方々。「人を雇って仕事をするなんて思っていなかったのですが、いい方達に巡り会えてほんとうによかったです」と、アトリエ運営に関しても歯車がカチッと合って、ゆっくり心地よく動いているようです。

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 Sunny & sonsでは、月に一度はアトリエオープンデイを開いて、通常のホールケーキのオーダーのみの販売を、ピースに切って販売する日を設けています。お客様は地元の方々に加えて、都内や地方からも。「この店のために葉山を目指してくださる方もいてびっくりします。バス停から坂を登っていらして、ほんとうにありがたいです」と優子さん。何年もかけてつながってきたファンの方々には、そのハートがお菓子を通して伝わっているのです。

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葉山という土壌で お菓子の道が開かれていく

 逗子に住んだ頃は、友達も少なかったという優子さんですが、葉山に来てこの10年ちょっとで沢山の人々との出会いがありました。こうしてコツコツ作り続けたお菓子がほんとうに美味しくて、それを心から喜んでくれる人がいて、人から人へと伝わり、広まっていく。「葉山」という土壌もまた、優子さんのお菓子の道を育むには欠かせないものだったのかもしれません。手作りで安心できるお菓子を作る、そんな最初の気持ちを大切に、ビジネスとして大きくしていくより「今がベストかな」と語る優子さん。

 好きなものに対する熱意と、だからといってこだわり過ぎないバランス、そして何よりもの選びのセンスのよさが、SUNNY & SONSの魅力の源。優しい味のクリームを口に含んだ瞬間に、「あぁ、なるほど」と誰もが思えるはずです。

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クッキー、ハーブティー、ドライフラワーミニブーケ、リネンナプキンが入ったsummer gift box

 アトリエの棚には、優子さんがパリのアンティーク市で仕入れたきた食器が並んでいます。「バースデーケーキのオーダーも多いので、一緒にプレゼントするお皿としてどうかしらと思って」。見かけも味もスイートで心安まるケーキに、まるでアートのように寄り添うお皿。SUNNY & SONSの世界観は触れる人の心をハッピーにして、このアトリエから静かに発信され続けます。

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photo : yumi saito
interview & text : sae yamane
coordinate : yukie mori

HAYAMA SUNNY & SONS Cake and Deco

SUNNY & SONS

instagram@sunnyandsons

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