湘南くらすらいふ第51回 神崎美香さんのClass Lifeな暮らし

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春の陽射し映ろう海を右手に見ながら葉山から車を走らせると、ほどなく秋谷へと入ります。海沿いの道から坂道を少し登ったところにある一軒家、ヘア&メイクアップアーティスト、神崎美香さんのご自宅は、足を踏み入れた途端にワクワクする仕掛けに溢れていて、家まるごとがアートのよう。この壁紙はどこで? あの流木アートは? この部屋では何をするの? 一つ一つに興味を掻き立てられ、答えを聞くたびにセンスを感じます。この土地に住まいを構えて4年、都内を中心とした仕事から、少しずつ、そして確実に海のそばでの仕事へと移行しつつある美香さんの、ライフスタイルを覗いてみました。

思い描いた家は、これまでの人生の集大成

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 ヨガのワークショップとフリーマーケットを開催しています、と招かれた家は、個人のお宅とは思えないほどオープンな雰囲気。玄関を入るとサーフボードが並び、高い天井のリビングルームにはDJの機材が置いてあります。ソファの横の広がりのあるフロアにはヨガマットが何枚か敷かれ、クラスの始まりを待っているところでした。数段ステップを上がったところにキッチンとダイニング、隣には壁に大きな鏡が設えられたスペース。そこに出店者の友人たちが思い思いの商品を並べています。さらにその先に開放感のあるウッドテラスがあり、吹き抜けになったキッチンの上を通って階段は2階へと続きます。

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 インテリアはダイナミックな絵柄の壁紙やシャビーシックな木材で統一され、天井からはガラスのランプが下がり、グリーンのプラントが所々に置かれています。独特なセンスのもとに集められたオーナメントのルールのない雑然さが、なんともいえない雰囲気を醸し出しているのです。建築家やインテリアデザイナーに任せたのでは、こうはいかないのではと思うほど、個性が現れた素敵な空間。聞いてみて、なるほど、家のデザインは美香さんによるもの。彼女の思い描いた家を建築家、大工さんとのコラボレーションで実現させたものなのです。

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 「感性」と「実践力」。美香さんから感じたのは、ふたつのキーワードでした。ほかにはないこの家はその作品のひとつであり、彼女がこれまで生きてきた人生の集大成。自身で切り開いてきた道筋をさかのぼってお話を聞きました。

ロンドンでの経験が、ライフスタイルのベースに

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 キャリアが始まったのは20代前半。ヘア&メイクアップアーティストのアシスタントとして4年半務めた後、いざ独立というときに、「外国人のモデルさんたちと仕事をするためにはきちんと海外で経験を積みたい」という理由でロンドンへ渡ります。ロンドンでの経験は、仕事の面でもライフスタイルの面でも、精神的な部分でも大きく影響したのでしょう。最初の数年は同じように未来を夢見るカメラマンやモデルたちと撮影をし、その作品を持ってエイジェンシーを周り、「仕事をください」と地道に営業を続けたそうです。やっと所属事務所が決まりかけたときに長女を妊娠。そのタイミングで、ドイツ人のファッションモデルとフランス人のジャズミュージシャン、そして中国人のデザイナーという3人の女性の住むフラットに、4人目の住人として加わります。
 「ルーメメイト同志で作品作りをしたり、週末はホームパーティを開いて、誰が来てもオープンな家でした。人種の違いは、むしろしっくりきましたね」。今でも自宅を解放してワークショップやパーティを開くことが好きだし、「来てもらえることが幸せ」と言う美香さん。異国で集った友人たちの懐の深さが今の彼女のベースにあります。帰国後はシングルマザーとして子育てと仕事に必死でした。「自分がいついなくなってもいいように、40歳までには建てたいと思って」と、都内に家を構えるという頼もしさ。そのためにどれだけ働いたことかと感心せずにはいられません。ただ美香さんはその苦労をおくびにも出さずに、30代後半はとにかく働くだけ働いて、年に2、3度は1週間から10日の休みをとってハワイでどっぷりとサーフィンに浸る環境をつくったそうです。さらにハワイに移住しようと、ロミロミのマッサージのライセンスを取り、働くヘア&メイクのサロンも決めていました。

180度の転回、そして人生のシフトチェンジ

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 そこまで決意していた彼女ですが、今、この場所に住むことになったきっかけが、ご主人との出会い、そして結婚という180度の転回。「人生何が起こるかわからないですよね」と運命を流れのままに受け入れながらも、ハワイでなかったとしても、海の側にどうしても住みたいと、この土地を選びます。家を建てることは楽ではないけれど、「ふたりで頑張れば何とかなるかな」という気持ちで。40代の半ばに男の子を授かり、現在、52歳。「前は母と父の一人二役だったけれど、今はお母さんだけをやっていればいいので、働き方が変わりました」。昔に比べれば今は隠居のようだと笑いますが、実は次の波へと漕ぎ出しています。

 子供のことを中心に考え、家でできる仕事に少しずつシフトチェンジ中。地元で繋がったカメラマン、フラワーアーティスト、そして着付けのプロたちと組んで、ウエディングや七五三、ファミリーイベントなどの写真撮影のサービス「tsumugu」を始めました。月に一度のYOGA&フリーマーケットのイベント「surya秋谷yoga」も、ライフワークのように続けています。「自宅のこのスペースを使ってみんながハッピーになれることがしたかったんです」。いちから作るなら、多目的に使えるスペースにしたい。ちょっと非現実的なほうが、来てくれた人も「変身」しやすいのかなと、生活感よりスタジオのような空間をイメージしました。もちろん、美香さん自身がこの場に暮らす一瞬一瞬を楽しんでいます。

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東京でも、ハワイでもなく、ここに暮らす楽しさ

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 息子さんのママ友に習い始めた「キモノ」がとにかく楽しくてと笑い、地元で開かれている農業を学ぶ教室「ファームキャニング」に2年間参加し勉強して、やっと家の畑も開墾できると嬉しそうに話す美香さん。「土を運んだり、木材を運ぶために、軽トラを買って、今は色を塗ってもらってるところなんです」と、始めるとなったらとことんやる姿勢が彼女らしい。そして何より、そんな場を通して出会った仲間と過ごす時間が有難くて、東京にいたらこうはいかなかったかもしれない、「こんなに人生開けて、老後まで楽しんでいけるんだなぁと思うんです」。
 「こうしたい」という思いに率直に向き合い、決断し、動いていく姿勢。逆行する流れに留まるより、流れに乗り進むことを選ぶ潔さ。それが美香さんの生き方であり、個性であり、一緒にいると見習いたくもあり、励まされるエネルギーがあります。
 「ハワイに行かなくて、こっちにきて、ほんとうによかったなぁと思います」と語りつつ、「でも、たまにハワイのことを考えて、『チェッ』と思うんですよね」と。おどけながら心の微妙をこぼす瞬間、彼女の今がいかにしあわせで充実しているか、そしてこれまでどれだけ精一杯生きてきたかが、その言葉に表れているような気がしました。

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interview & text : sae yamane
photo : yumi saito
coordination : yukie mori

神崎美香 ヘア&メイクアップアーティスト

1990年よりヘア&メイクアップアーティスト中野明海氏に師事、93年フリーランスとなりロンドンに拠点を移す。95年帰国後は、雑誌、広告、音楽、ファッションショーなど多岐に渡り活躍中。最近は、葉山を拠点に写真撮影サービス「tumugu」を展開するほか、自宅でヨガイベント「surya 秋谷yoga」を開催。
ヘア&メイクアップアーティスト神崎美香 POETESS Micca Kanzaki
写真サービス"tsugumu" instagram@tsumugu_poetess_studio
"surya秋谷yoga" instagram@miccakanzaki


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