鎌倉くらすらいふ第52回 増山大輔さん、千明さんのClass Lifeな暮らし

鎌倉の海にはうっすらとうねりが入り、サーファーの姿がちらほらと浮かんでいます。江ノ電の鎌倉高校駅の横の踏切を渡り、坂道を登り、下って、細い道をくねくねと入っていくと、道路は急に舗装されていない砂利道になり、さらに数軒の家。その奥に増山大輔さん、千明さんの家があります。鎌倉にまだこんな土地があったのかと思うほど、第一印象は「広がる空と緑」。二人は鎌倉のヘアサロン「ビュートリアム」で同僚として出会い6年前に結婚、2017年7月にこの家が完成しました。

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「拓けた土地」を探して4年

高台の上、目隠しになる竹林の下には隣接する家はなく、「拓けた場所」に建つ家。玄関に一歩足を踏み入れて感じるのは、なんともいえない心地よさです。天井の高いエントランスホールを見上げると、モンステラが大きく育ち、部屋の中でありながら外の光や空気感がそのままそこにある。木のベンチの上に重ねられた大輔さんのトレードマークの帽子は、まるでオブジェのよう。日常の暮らしの気配とおしゃれなインテリアのバランスがナチュラルで、置いてあるひとつひとつにこだわりが感じられ、増山家ならではのオリジナルな世界があります。土地探しから家を建て、実際に暮らして2年ほど、家に纏わるエピソードを聞かせてもらいました。

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 ふたりの共通点は「家が好き」ということ。とりわけ大輔さんは「モノ」が好きで、探求するタイプ。千明さんは、「スイッチが入るとすごい」という集中こだわり派。まず土地探しに関しては、「とにかく気持ちいい所」を条件に4年の歳月をかけたと言います。大輔さんは、自然豊かな伊豆大島の出身。上京した頃は家を建てるのは夢のまた夢、ましてや育った故郷のような環境を見つけるのは無理だと思っていたそうです。けれど鎌倉で働き、まずは鵠沼、結婚してからは稲村ガ崎に住んでみて、「頑張れば、探せるかもしれない」と考えが変わりました。

 グーグルマップの航空写真を眺め、「ここ抜けがいいんじゃないか」というところにピンをして、「土地として売り出さないかな」と願い、バイクでちょこちょこ見回っていたと言います。ただ、そんな思いも4年を過ぎる頃には、諦めの境地に。「締め切りを作らなくちゃいつまでも家を建てられない」と、稲村ガ崎で出物だった土地の購入を決め、契約を交わそうとした1週間前に、とうとうこの土地に巡り会います。古い一軒家と竹林と畑が放置された広い土地が売りに出されたのです。

「こうしたい」というアイデアを伝えて

 建築家はすでに決まっていました。鵠沼に住んでいた頃に親しくなったSTUDIO LEONの河村礼緒さん。「家好きの人とやると、面白いものができるからぜひ!」と言ってもらうことが出来、プロジェクトが始まりました。何度もミーティングを重ね、自分たちからもこうしたいというアイデアを伝えました。お互いサーファーでもあり、肌で感じる住まいへの感覚はきっと共通していたはず。ミーティングは、「(お酒)飲んじゃうから、酔っぱらう前に話さないと、すぐに『次回だね〜』となってしまって」と笑う大輔さん。そんな湘南のリズムが楽しかったと振り返ります。

 家を建てる際に最も大切にしたことは? 「外と中の境界線をできるだけなくすということ」と大輔さん。「キッチン中心の家」と千明さんが加えると、大輔さんが「横チン(千明さんのあだ名)主導の家」と隣で嬉しそうにからかいます。ヘアサロンでの同僚だったふたりのチームワークは、そのまま暮らしに活かされています。いかに効率よく日常を営むことができるかを、よく相談して作られたのが家のところどころに見られます。

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 全体のプランは、まずキッチンから見える景色から決めました。吹き抜けのリビングダイニングには光が溢れ、庭とシームレスに繋がり、その向こうに竹林を借景にした風景と空が広がります。テラスに続く開口のガラス戸は戸袋に入る形で全開できます。これは吉村順三*1さんの様式だと説明してくれる大輔さん。

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建築に対する興味も深く、アルヴァ・アアルト*2の影響も強く受けていると話します。ほかにも本や雑誌を眺めては、こんなものが好きだというイメージを集めていったそうです。

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 家を建てる前には、ハンドクラフトにリスペクトのあるポートランドに惹かれ、インテリアリサーチの旅をしたふたり。AirB&Bを借りて住むように暮らし勉強したと言います。家にあるイームズのダイニングテーブルに関しては、「本物を使っている家で、試してみたい」とそれがあるAirB&Bにステイ。また、エースホテルなど、話題の建築にも宿泊しました。

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「家好き」の情熱から出来上がった空間

 いいと思ったら心にメモ。そのリストが、家を建てる際に採用されています。建築が進む段階では度々足を運び、棚の高さを決めたり、大工さんが担当するほかの現場を覗きに行って、階段を上がるほど少しずつ幅を広げていくと空間が大きく見えるという技法を知り、即オーダーしたり。細かい部分へのこだわりも、ふたりの家に対する情熱が伝わり相談に応じてくれたそうです。引き出しの取っ手からスイッチ、電球など、すべて自分たちで発注。家を建てるまでの4年という月日にいつか使いたいと手に入れていたものや、海外の旅先で見つけたものも多いとか。好きな色のペンキで塗られたアンティークのドアや自分たちで塗った壁など、洗練されている空間なのに、どこかホッとするのはそういう思いを感じるからなのかもしれません。

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 導線にこだわった2階。バスルーム、パウダールーム、トイレ、洗濯機、乾燥機、室内物干しスペースがひとつになった空間から、ウォークインクローゼットを通って、ベッドルームまでつながっているという配置も素晴らしい。千明さんいわく、「お風呂から上がって裸でベットルームまでいけるように、外から見えない導線にしてもらいました」と。そしてこの家に住んでいちばん嬉しかったのは、ガス乾燥機を入れたこと。「鎌倉に住むなら絶対必要」とサロンのお客様の地元マダムたちが口を揃えて薦めてくれたそうです。

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家を育てるたのしさ

 家の中を案内してもらいながらも、足元ではこの家のもうひとりの家族、フレンチブルドッグのコスケが忙しくみんなへの挨拶にまわっています。「家を建てたのはコスケを飼う前だったので、もう少し早かったら違っていたと思います」と、1階の和室の畳についた爪痕を見ながら、コスケを愛情たっぷりの目で見守るふたり。

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千明さんのご両親の仏壇を置きたいと作った和室は、家の南側で光の入るいちばん気持ちいい場所にあります。ゲストルームとしても使われ、家全体のシンプルでモダンな雰囲気に馴染む軽やかなテイストです。

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「玄関にコスケの足洗いの水場を、将来的にはつけようと思っています」と言いつつ、「庭も完成していなくて」、「暖炉もいつかつけたい」、などまだまだやりたいことがたくさんある様子。

 「自分たちでやれるところはやりたい」という当初の思いから、伸びしろがたくさん潜んでいる家。ふたりとコスケが生活していく上で、どんどん育つ可能性のある家は、まさにライフスタイルに寄り添う場所。いまもあれが必要、こうしたらいいなど、物探しにも余念がないふたり。暮らすことがワクワクする、そんな家の楽しさが伝わってきました。

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*1吉村順三(1908-1997)建築家。フランク・ロイド・ライトのもとに学んだアントニオ・レーモンドに師事。日本の伝統とモダニズムの融合を図った。皇居新宮殿の建設に関わった。

*2 アルヴァ・アアルト(1898-1976)フィンランドが生んだ20世紀を代表する世界的な建築家、都市計画家、デザイナー。生涯に渡り、モダニズムに自然の要素を取り入れ、人々の暮らしをよりよくする建築や家具デザインなどを追及した。

interview & text : sae yamane
photo : yumi saito
coordination : yukie mori
増山大輔 
ヘアスタイリストとして、ヘアサロン「ビュートリアム鎌倉小町」に勤務。エリアマネージャーを務める。伊豆大島出身。サーファー。写真や映像の撮影は趣味の領域を超え、編集などもこなす。
ヘアサロン「ビュートリアム鎌倉小町」


横田(増山)千明 フリーのヘア&メークアップアーティストとして、雑誌や広告の撮影やウエディングに携わるほか、今秋にサロンをオープン予定。福井県出身。

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