湘南くらすらいふ第53回 豊田邦栄さん、文江さんのClass Lifeな暮らし

 大学の同級生だった豊田邦栄さん、文江さんご夫妻は、東京育ち。結婚をして週末の度に江ノ島までヨットに乗りに来ていたことをきっかけに、湘南に移り住んで45年が経ちます。最初は江ノ島の見えるマンションに住み、二人のお子さんが高校生になる1991年に鵠沼に今の家を建てました。招き入れられた家が、あまりにも「日本」の香りがしないのに驚きます。扉に始まり、天井の高い間取り、飾られた絵や調度品まで、ヨーロッパのホテルや邸宅のような雰囲気を漂わせています。部屋を案内されているうちに、「どうしたら、こんな風に素敵に?」という気持ちでいっぱいに。その答えは、二人が共に歩いてきた人生にありました。

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若い時に行った海外で、影響を受けて

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 「若い時に、フランスやアメリカに行って、非常に影響を受けました」。大学を卒業し、アメリカの製薬会社に就職し、すぐに結婚。海外への出張の多かった邦栄さんは、現地の上司や同僚の家に招待され、そこでの夫婦の役割を目の当たりにして、びっくりしたと言います。「それまでは旦那さんは、ソファでブランデーを飲んでると思っていたらまったく違って、ほんとうによく働くんです(笑)」。掃除も料理もする。どの家に行っても快適で、綺麗に飾っていて、「日本では、旦那さんが威張っているけれど、海外の家庭では奥さんが強い」。そこにすかさず合いの手を入れる文江さん。「そうなの、その点ではぴったりの奥さんだったのよぉ」とウインクしかねない軽快な口調。
 
60年代から70年代当時、欧米では当たり前だった仕事関係の大切な方を自宅に招待をしてもてなすという習慣は、日本ではまだほとんどなかったそう。でも海外でのそんなしきたりを二人は実践して、結果、仕事の円滑な運びにも繋がったのだそう。家が立派できれいだから人を呼んでもてなせるのでは、とつい思ってしまいがちですが、「結婚したてで市川の6畳一間に住んでいた頃も、友人、会社の方々にはいらしていただいてましたよ」と。ご主人の取引先、仕事関係の方はみんな知っていると言う文江さん、「きっと奥さんが美人だから、みんないらっしゃるのよ」とウィットに富んだ感じでおどけます。そんな会話に自然と気を許してしまうゲストが、いかにリラックスして楽しめるのかが想像できます。

出張の度に、アンティークマーケットに

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「おしゃべりが好きなんですよ」と笑いながらも、邦栄さんがコーヒーを入れてサーブする間には、理系の知識で仕事関係の方のお話にもお付き合いできる文江さん。若い頃から出張にも同行し、夫婦での出席が当然というパーティに同席していたそうです。そんな海外での経験からライフスタイルまで影響を受けたという二人の住む家が、外国のようであるのは当たり前なのかもしれません。とりわけフランス人上司の地中海に面した豪邸には、驚きと共に学んだことも多く、ノルマンディ風の家のインテリアのベースはそこにあります。1年のうち多いときは100日は海外出張だった邦栄さんが、出張の度にスーツケースに潜ませて持ち帰ってきたフランスのアンティークを中心に設えてあります。
 
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 「インテリアはほとんど彼の趣味なんですよ」と言う文江さん。置かれた品々を見ながら思い出を語るふたりの姿が微笑ましく、その多くはパリのクリニャンクールで手に入れたもの。薪ストーブの横の壁に掛けられた女王様のベッドウォーマー、パーツが残されてアートピースのように見える柱時計、ダイニングルームの壁にかかる大小さまざまな銅鍋。昭和天皇が訪れたという三ツ星レストランにあった蛇口付きウォータータンクと同じ品は、偶然市場で見つけたものだそう。テーブルセットや棚はイギリスのアンティーク。若い頃から見て肌で感じることで育まれたセンスによってひとつひとつが選ばれ、ここに集まってきています。

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家に手をかけて育てながら住む

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 18年近く住んでいた最初のマンションの写真を見せてもらうと、今の家のインテリアとほぼ変わりがなく、それがいい雰囲気で増幅されています。30代、40代の頃からの変わらない趣味が重ねられて、こうした落ち着きのある空間となっていることに改めて感心せずにはいられません。それにしても、ホテルのようにほんとうに綺麗な空間。「主人の趣味。お姑さんのようなんですよ」と棚の上に人差し指を這わせ埃をチェックする仕草をして笑う文江さん。「きれいのままでキープするのも、汚れてから片付けるのも、使うエネルギーは同じなんだよ。だったらきれいにしておいたほうがいいと主人が言うんです」と。「じっとしていられないたち」とはいうけれど、気づいたらササッと掃除するのが二人の習慣であり、家がいつもきれいであるための秘訣です。
 
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 庭に出されたテーブルで話を聞きながら周りを見回してみると、丹精に刈り込みの入った庭の木々も植えられた花も花壇の木のフェンス、そして敷石まで、なんと邦栄さんの手によるものと言います。さらに家の内壁の漆喰は、家を建てた際、ふたりの息子と一緒に塗ったそうです。家や庭に手をかけて育てながら住むスタイルも海外の暮らしそのもの。

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二人三脚で暮らし、もてなす

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 邦栄さんは昨年のリタイアを機に家で過ごす時間が長くなりましたが、学生時代から続けていたスチールギターのライブを行ったり、ウクレレを教えたりと活動はさらに広がっています。一方、文江さんは、「一生仕事を続けさせてください」というのが結婚の条件だったというだけに、今でも少人数の近所の小中高校生に数学、英語の個人レッスンを続けております。「小学生から、中高生までを相手に喋っているから、ちょっと気が若いかもしれない」という文江さんの横で、「若い人と話すのが、いちばん!」とまるで健康法のように語る邦栄さん。確かに、お二人の清々しいエネルギーはその賜物でしょう。

 家を訪れたどのゲストも同じように受け入れ、二人三脚でもてなす豊田夫妻。長い時間を共に歩んで来た二人は、湘南での暮らしを楽しんできました。いいご縁もあり、みなさんが訪ねてくる場所でもある。邦栄さんが丁寧に入れたコーヒーを飲みながら、文江さんのテンポのいいお話を聞くのは、取材であることを忘れてしまう和やかな時間でした。この家を訪ねた誰もが、そう思って帰るのでしょう。暮らし方はもちろん、素敵な夫婦のあり方を学んだ気がします。

interview & text : sae yamane
photo : yumi saito
coordination : yukie mori

豊田邦栄さん 文江さん

外資系製薬会社に長年勤め、昨年75歳でリタイアした邦栄さん。現在は、スチールギターのバンドを組んで活動する傍ら、ウクレレを教えています。文江さんは、自宅の一室で小学生から高校生に数学、英語を教える個人レッスンを営んでいます。それ以外の時間には料理教室や英語教室に通います。

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