湘南くらすらいふ第56回 平野宏枝さんのClass Lifeな暮らし

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 関東地方が梅雨に入る数日前、日差しが燦々と降り注ぐ中を、葉山御用邸近く、海辺の公園に面した真っ白なマンションを訪れました。ゆったりとした共有スペースにソファが置かれ、窓には木々のグリーンが映え、リゾートの雰囲気をたたえています。その一室にオフィス兼住居を構えるのは、カリフォルニアのサンタモニカと葉山でデュアルライフを送る平野宏枝さんです。白を基調としたコットンの服にライムカラーを効かせた装いで出迎えてくれた姿は、一目で「元気」をもらえる瑞々しいエネルギーに溢れています。

 ビューティプロデューサー、メイクセラピストという肩書きをもつ一方で、カリフォルニア観光局の公認PRとしても活動、またライターとして執筆するほか、3ヶ月に一度は自らの担当するショップチャンネルに出演するなど、詳しく挙げれば、さらに驚くほど多岐に渡る仕事をこなすキャリアウーマン。ひとつの体でいくつもの顔をもっている宏枝さんは、2ヶ月ごとに暮らしの場を変え、1〜2ヶ月の滞在がルーティンになっていたそうです。今回は3月に日本に帰国、その後新型コロナウィルスの影響でアメリカに戻ることが難しくなり、3ヶ月が経っていました。ご主人と暮らす部屋は、ミニマムに調えられ、澄んだ空気が漂っています。

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リハビリメイクとの出会いから

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 インタビューは、これまでの仕事の背景にあるストーリーから始まりました。きっと取材をするのも、されるのも数多く経験しているのでしょう、パーソナリティを把握するのに必要な情報をよどみなく話してくれます。まるでブラインドタッチでキーボードを叩くようにリズムカルに続く言葉。波乱万丈とはいわないまでも、その生きてきた中には思いがけない困難があり、「なるほど」と頷けること、「すごい!」と感心せずにはいられない考え方が次々と飛び出します。それぞれの話の興味深さに、彼女の世界にぐっと引き込まれていきます。

 家の柱を立てるかのように、ひとつひとつ築き上げてきたキャリア。現在、その太い柱の1本が、2016年に発表したオリジナルスキンケアブランド「セラプル」だと言います。第一号商品、オイルセラムは効果が実績となり、雑誌などでベストコスメとしても取り上げられています。さらに2019年10月にアイゾーンオイルバーム、この8月にはクリアリングバスソルトが登場。

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 星の数ほどある中で、脚光を浴びる品を生み出す力の源は、宏枝さんの歩んできた道にあるようです。 岡山県で育った小学生の頃に、重度の後天性アトピーが発症。以来、高校生までステロイドの治療薬が手放せなかった当時は、本人曰く「岡山いち、お化粧の濃い女子高生」というほど。肌をカバーする目的がきっかけとなりメイクにはひとかたならない興味があったようです。そして、大学在学中の18歳の時に、リハビリメイク(*1)の第一人者、かづきれいこさんの存在を知り、弟子入りします。

20代は記憶もないほど忙しい日々

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 見た目の悩みをなくすことで、生活の質が高まり、自信をもてるようになる。それによって人と関わりやすくなり、生きづらさから開放される。そんな効果につながる「元気にするためのメイク」を知った時、「これは社会貢献になる」と思ったのだそうです。そこでの学びは宏枝さんにとっても大きな変化をもたらします。「それまで医学の力の恩恵を受けて助けられていましたが、植物由来のナチュラルな成分とのバランスが大切だということも知り、『魔法の薬』だったステロイドが必要ではなくなったのです」と。

 プロコース、養成コースを経て、仕事はコールセンターから始まりました。そしてサロンの店長、ホスピスや老人ホームでの施術や百貨店などでの商品企画など、ビューティセラピストとしてさまざまな経験を積みます。当時培ったカスタマーケアのノウハウこそが、今の活動の底力となっています。けれどもひたすら頑張っていた宏枝さんは、27歳で体を壊し、6年間積み重ねたキャリアを手放すことになります。

 28歳で療養のために岡山へと戻り、少しずつ体調がもとに戻り始めた頃から、ブログを通して、自らのビューティの知識や考え方を発信します。それがある企業の目に止まり、メイクセミナーの依頼が入ります。その頃から岡山と東京のデュアルライフが始まり、メイクセラピストとして、そしてライターとしての活動が忙しくなります。一度失いかけたキャリアを取り戻し、夢中で働いた20代。「辛い時期で、記憶もないほど」と宏枝さんが言うのですから相当のものでしょう。

「いつか何かを作り出したい」という思いが形に

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 それまで海外と縁がなかった宏枝さんに、人生の転機となった海外行きを後押ししたのが、ホロスコープの「海外に縁がある」という星のサインでした。30歳の誕生日の前後に初めてカリフォルニアへと旅立ちます。開放的な空気に惹かれて、それ以来休みが1週間あれば行くようになります。そのライフスタイルをブログでアップし続けていると、カリフォルニアの観光局から連絡があり「魅力を発信して欲しい」と、PRとしての仕事を依頼され、のちに本も出版します。そして、デュアルライフを送っているうちに、ご主人との出会いもありました。

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現地のファーマーズマーケット

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カリフォルニア・サンタモニカの自宅のキッチン

 一方で、ビューティ界では、商品開発からイベントのプロデュース、ブランディングなど、宏枝さんはキャリアの「柱」をいくつも立て続けています。順風満帆な船にいい流れが引き寄せられるかのように、「セラプル」のきっかけとなる出会いが舞い込んできます。醤油麹カスから抽出される天然ヒト型セラミドの研究者から、アメリカでの展示会のためのプロデュースを依頼されます。実はここで役にたったのが自身の敏感な肌質でした。バリヤ機能の低い肌に使っても安心で効果的だった成分。自らの使用経過写真をパネルに使ったプレゼンテーションなどからは、一見スマートにこなしているようで、その裏での真摯かつ労力を厭わない姿勢が、彼女の本領なのだというのが伝わってきます。

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 その発想力とバイタリティに驚いていると、「祖父も父も起業家という家で育ったので」とてらいない様子で、「父は常に新しい思いつきをノートに書いていました」と話しを続けます。自分はもっぱら携帯のメモ機能を活用しているとのこと。祖父や父の影響から「いつか何かをつくり出したい」と抱き続けていた思いは、「セラプル」という形に。昨年環境大臣賞を受賞したエシカル成分の天然ヒト型セラミドを使用した製品に「ナチュラルなだけでなく、確かなエビデンスも欲しかったので」と、リリース作りの際には研究者たちの協力に助けられたそうです。サイエンスと植物の力の融合。「セラプル」のテーマである「デュアルバランス」は、繊細さと強さを併せもつ宏枝さんのライフスタイルであり、人生と重なるのかもしれません。

「速く効率よくから、ゆっくり丁寧へ」

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 そんな宏枝さんに、今ひとつの転機が訪れています。新型コロナウィルスによる影響で世の中の状況が大きく変わったことにより、「見ている方向が、数ヶ月前とは変わりました」と。活動を止めずにいられない状況のもと、「自分には何ができるのだろう?」と考えたと言います。もともとライフワークとして10年間続けている、女性の光を引き出すための写真撮影プロジェクトもしかり、宏枝さんの心の底にあるテーマは10代にメイクの道に進んだときから変わっていません。日本人の「幸福度を上げることができれば」とオンラインのコミュニケーションサイトで、そのためのテクニックをシェアする場を始めたそうです。テーマは「Well Being」。ポジティブ心理学やひそかに勉強を続けディプロマを手に入れたホロスコープをツールとして、幸せの多様性を伝えていけたらと言います。

  「速く効率よい生活からゆっくり丁寧にと、自分のプライオリティも変わってきています。見えない多数への発信を、ひとりひとり目に見える人を大切にする方向へ」と。そのライフスタイルのベースが葉山にあることをとても有り難く感じている様子で、「ハーブを植えたり、ポプリを作ったり、今まで考えられないような時間の使い方をしています」。ミニマムな物に囲まれた暮らしを通して、必要なものは少なくていいのだということも実感。「今は山で生きるサバイバル本を読んでいます」と笑います。ご主人とは「葉山に小さな家か、コテージを建てたいね」と自然の中での暮らしから得る「幸せな感覚」を満喫しているようです。

 激流を漕ぎ抜け岸でひと休み。穏やかな心で周りを眺めた宏枝さんの目に映る景色はどんなものなのでしょうか。葉山から新たな発信をする日が楽しみになります。 

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interview & text : sae yamane
photo : yumi saito
coordination : yukie mori 

*1 リハビリメイク 傷ややけど痕などをカバーし、外観を整えながら心を癒して、QOL(Quality of Life:生活の質)を高めることを目的に、外観に負傷を負った方が社会に踏み出すために習得するメイク。



平野宏枝

株式会社HIROE STYLE LAB 代表
ビューティプロデューサー / メイクセラピスト / CERAPLE ファウンダー
カリフォルニアと葉山を数ヶ月ごとに行き来するデュアルライフを通して美容・健康・ライフスタイルにおいての「WELLBEING」な考え方を発信。
女性のQOLをあげるために10万人以上アドバイスをしてきた経験を生かして、独自の視点で捉えた心を豊かにするコンテンツを提案する。
商品開発、マーケティングコンサルティング、執筆、イベントプロデュースのほか、ショップチャンネルに10年出演するなど多岐にわたり活躍。
スキンケアブランドCERAPLEを開発、ananベストコスメ大賞、VOGUEビューティアワードノミネート、伊勢丹ベストコスメ受賞。伊勢丹新宿本店 ビューティアポせカリー、全国のロンハーマンなどで展開中。
「しあわせの多様性」をコンセプトにしたオンラインサロン「JOYFUL VILLAGE」もスタート。
カリフォルニア観光局公認PRとしても活動し、著書に『気持ちいい毎日を生きるlAスタイル』がある。
平野宏枝オフィシャルサイト
CERAPLE JAPAN オフィシャルサイト
JOYFUL VILLAGE

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